エントリー作品紹介
どうする?家族のメンタル不調 井上智介 著 集英社 2022年11月発売 |
書評
古山有則さま(メンタルトレーナー)
けけさま(MBA経営コンサルタント)
著者 井上智介さまよりメッセージを頂きました!
「患者さんだけではなく、家族もまた苦しい」
絶対に口には出せないし、誰にも相談することができない。
そのような家族の苦悩をたくさん精神科医として見てきました。
疾患を抱える患者さんのサポートは、愛情や思いやりなどのきれいごとだけでは乗り越えられません。
家族だからこその葛藤や罪悪感や、献身がもたらす新たな痛みにも正面から向き合っていくリアルが存在します。
しかも、心の病の治療は、どうしても長期間になりやすい。
すると、家族としての自己犠牲の罠からずっと抜け出せないこともあります。
しかし、誰かをサポートできるのは自分の心身に余裕があって初めて可能なのです。
それは家族であっても同じ。
その余裕を作るために、自分の心が壊れてしまわないために、つらいときは弱音を吐いても大丈夫。
気の利いた言葉が出なくても、献身的な態度でいられなくても、ただ傍にいるだけで十分にあなたは頑張っています。
本書は「患者を第一優先に考える」という医療の原則からは、ややタブー視されている患者家族の苦悩についての一冊です。
実際の診療で家族から寄せられるお悩みに、理想論ではなく現実的で具体的な方法をお伝えしました。
ご家族が、患者さんと新しい健全な関わり方ができるきっかけになることを願っています。
産業医・精神科医 井上智介
おすすめ理由を出版社さまに伺いました!
集英社 平本千尋さま(ノンフィクション編集部)よりメッセージを頂きました。
ご協力ありがとうございました。
本書は、メンタル不調に陥った方を支えるご家族に向けた本です。
心の不調を抱える人にどのように接すればいいか、疑問に感じがちな項目をQ&A方式で記載しており、具体的な質問に答えていく形式をとっています。
ご自身に関係のありそうな項目だけを、目次を頼りにピックアップして読むことができます。
ずばり、メンタル不調に陥った人を看護することになった人です。
家族や身近な人がメンタル不調に陥り、うつ病やほかの精神疾患と診断されると、驚きとともに、何をどうすればいいか、途方にくれる方は多いことと思います。
また、「家族のあたたかい励まし」など、具体的ではないイメージだけが先行しており、実際にはとても困難な状況になるにもかかわらず、支える側の負担や、心のケアについて語られる機会は多くありません。
本書の主役は病気になった本人ではなく、その家族などの「支える側」です。
理想論につぶされることなく、自身の心身の健康を維持しながら、長い目でメンタル不調を見守っていくための心構えを知ることができます。
「ケアする人のためのメンタルケア」。
つまり、メンタル不調の当事者ではなく、支える家族のケアを主眼においていることです。
各疾患についての解説本は多いですが、家族の側の接し方、心構えに特化した本はあまり多くありません。
編集を担当した私自身が、メンタル不調に陥った家族を看護した経験があり、その際に「優しくしなければいけない」「弱音を吐いてはいけない」「相手にできる限り寄り添わなければいけない」と理想論につぶされそうになってしまい、非常に苦しい年月を過ごしました。
メンタル不調は、長い目で付き合っていかなければならないものであり、当人にとっても支える家族にとっても、長い道のりになります。
同じような苦しみを抱えてしまうご家族にとって、少しでも気が楽になるような本が作れないかと考えました。
当人と家族が、お互いに無理をせずに支え合っていくためにどのような点に気を付ければよいのかを、産業医としての経験も豊富な井上先生に具体的な事例をもとに解説していただきました。
疾患によって症状はさまざまですが、共通する疑問や問題点に絞り、どんな状況の方にとっても自分のケースに応用できる形を目指しました。
メンタル本大賞®2025 選考観点
著者の井上智介先生は受賞(メンタル本大賞®2022 最優秀賞)のご経験があり、一貫して生きづらさや心の不調に寄り添う本をご執筆されています。
本書も、メンタル不調の当事者だけでなく、その家族にもあたたかな目線を向けた本となっており、自分を後回しにしてケアに翻弄されるご家族にとって、気持ちが楽になり、自身をケアする大切さにも気づいていただける内容だと考えております。
作品のご紹介ありがとうございます。平本さまご自身がメンタル不調のご家族に寄り添っていた際にご苦労されたとのこと。「誰かをサポートできるのは自分の心身に余裕があって初めて可能」というメッセージが井上先生の言葉とともに深く刻まれているように感じました。苦しむ当事者を支える方のためのメンタル本として広めていきたいと思います。