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【書評】『聞く技術 聞いてもらう技術』(評者:河合南/書店店主)

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古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします。

「タイトルに “技術” とあるとおり、実用的な “メンタル本” として機能する本」として推薦いただきました!多くのメディアでご紹介されている話題の作品です。
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版元ドットコム許可書影『聞く技術 聞いてもらう技術』 聞く技術 聞いてもらう技術
東畑開人 著
筑摩書房
2022年10月発売

書評

大佛次郎論壇賞受賞作『居るのはつらいよ』で知られる、臨床心理士 東畑開人さんによる新書です。

ビジネス書のようなタイトルに一瞬面食らいますが、どうやって相手の話を「聞く」か、自分の話を相手に「聞いてもらうのか」という具体的な技術も沢山掲載されているので、タイトルに偽りはありません。

例えば、

「聞く技術」としては相づちのバリエーションを増やそう、眉毛を上手く使って「聞いてるよ」という合図を相手に送ろう。

「聞いてもらう技術」としては、相手の隣に座って話をするきっかけを作ろう、マスクの色などを急に変えて異変を相手に察してもらおう。

などなど、実に具体的な方法が書かれていて、”実用書” としても大変に優秀なのです。

もっとも、この本ではいずれの技術にも「小手先」という形容がかぶさっています。

相手にも自分にも幾ばくかの余裕がある時には、小手先は充分に使えるし便利ですが、その余裕が失われた時、信頼関係をうまく保てない状況の時、小手先の武器では歯が立たない局面がやってくるのです。

そんな状況に追い込まれてしまうと、人の心は狭められ、耳はまるで塞がれたかのようになります。当然、相手の話を聞くのは困難になる。

では、そんななかでも「聞く」ためにどうするべきか?

まずは自分自身の話を「聞いてもらう」努力をしよう、と著者は説きます。

「聞くこと」が出来ない状況、聞くべき局面で耳が塞がれてしまう状況を招いている「余裕のなさ」や、その背景にある事情について、まずは誰かに聞いてもらう。

そうして心に溜まった澱を少し整理して、相手の話を受け入れるスペースを確保した後、ようやく私たちは相手の話を「聞く」事ができるのです。

個人的に素晴らしいと思ったのが、「聞く」「聞いてもらう」関係性が、当事者どうしで交わし合う閉じたものではなく、社会に向かって開かれたものとして記述されている点です。

つまり「Aさんの話をBさんが聞き、それとは逆にAさんがBさんの話を聞く」、という2者だけの関係ではなく、「Aさんの話をBさんが聞きその話をCさんが聞く、そうやって関係性がつながっていくなかで、AさんがZさんの話を聞く場面も出てくる」という鎖のように連なった関係性を著者は提示しているのです。

そうやって、「聞く」と「聞いてもらう」の健全な連鎖が起こっている社会、誰もが「聞く人」と「聞いてもらう人」の間を柔軟に行き来できる社会とはなんと優しく生きやすいことでしょう。

しかし、現実はそれとは逆の方向に進みつつあると、私は感じます。

一部の人間の都合や考えだけが大文字で押し付けられ、関係性の鎖からはじき出されて孤立に追い込まれる人達が日々増えてゆく。

そんな中で私たちに出来ることは、困難な状況にある方に「何かあったの?」と声をかけ、自分の困難を分かち合える相手を見つけて「聞いてほしいのだけど」と吐露すること。

そうやって、健全な連鎖を少しずつ巻き起こしていく事なのかも知れません。

評者プロフィール


河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。

公式サイト・SNS
百年の二度寝ホームページ
百年の二度寝 Twitterアカウント(@mukadeyabooks)

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