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【書評】『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』(評者:河合南/書店店主)

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古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします。

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誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド
ハラユキ 著/星野概念 監修
KADOKAWA
2023年11月発売

書評

コミックエッセイストのハラユキさんが、うつ病に罹患して精神科に通院し、治療のかいあって快方に向かうまでの体験を描いたコミックエッセイ。

何と言っても素晴らしいのは、コミックという形式を活かしきった、読みやすく理解しやすい一冊になっていること。

ハウツーもののコミックは色々ありますが、情報を詰め込みすぎて文字ばっかりの紙面になっていたり、コミックとしてのクオリティがやや低いと感じるものも散見します。
その点、この本の著者であるハラさんは、情報を漫画という「絵」に落とし込むのが抜群に上手い!
言葉で説明すると長くなってしまう部分も、適切に絵として表現されているので、引っ掛かりを感じることなくスラスラと読めてしまいます。
私は、30分強で一冊読み終わりました。

また、監修に精神科医の星野概念さんが加わっているだけあって、医療に関する描写も正確ですし、根拠のない治療法を勧めたり、「これさえあればうつなんてすぐ治る!」式の誇張表現もないので、安心して手に取ることができます。

本書の軸になっているのは、ハラさん自身が経験したこと。

何となく気持ちが落ち込むのを自覚し始めたところから、精神科を受診してうつ病と診断され、薬物療法と一緒にセルフケアも行って快方に向かうまでを、基本的には時系列に沿って描いています。

この本の特徴と言えるのは、「精神科を受診」のするまでの部分を大変丁寧に描いているところです。
受診しようと思ったところで体調が上向いて「これでも病院に行くほどなんだろうか?」と迷ってしまったり、病院選びの時に口コミサイトに翻弄されたり、「精神科に行く」と決心が固まるまでの心の揺れが実にリアルに描かれています。

昔と比べればだいぶハードルが低くなったとはいえ、やはり精神科を受診するにはそれなりの決心がいります。
病院選びも、「絶対に失敗できない」と思えば思うほどドツボにはまってなかなか決められないこともありますし、ようやく決めたら決めたで、期待が大きすぎてちょっとしたことで不信感を抱いてしまい、また一から病院探し、なんてこともあります。

そういった、不安や不満をひとつひとつひろいあげ、丁寧に解きほぐしてゆく姿勢が本当に素敵だと思いました。

本書では、医療以外の「セルフケア」にも紙幅を割いてます。

しかし、「セルフケア」だけで「うつ病が治る」ということは一切描いていない。
病院での治療がまず第一の柱であり、セルフケアはそれを支える添え木のようなものでしょうか? セルフケアを過信することなく、しかし、使えるものなら有効に使うという姿勢が、非常に誠実です。

30分~1時間で読み終わるなかに、正確な情報が過不足なく盛り込まれており、マンガというメディアの底力を感じさせられました。

うつ病の当事者さん、その中でも、調子は悪いけど「病院に行くほどではないかな?」 「この程度でうつ病と言えるのかな?」と迷っている方に読んでいただきたい一冊です。

評者プロフィール


河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。

公式サイト・SNS
百年の二度寝ホームページ
百年の二度寝 Twitterアカウント(@mukadeyabooks)

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