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【書評】『うつ病のぼくが始めた行商って仕事の話』(評者:實山美穂/元書店員)

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閉店前の文信堂書店 長岡店で文芸書・ビジネス書を担当。現在、小学館の小説ポータルサイト「小説丸」にもコラムを寄稿されている 實山美穂さま(元書店員) より書評をお届けします。

「メンタル本大賞®2023」エントリー作品

『うつ病のぼくが始めた行商って仕事の話』ちゃんちき堂のてつ 著(文芸社) うつ病のぼくが始めた行商って仕事の話
ちゃんちき堂のてつ 著
文芸社
2022年9月発売

書評

うつ病体験記でありながら、ビジネス書のような珍しい一冊でした。

どのように珍しいかというと、著者はIT企業でバリバリ仕事をし、責任のある職についていましたが、人間関係が原因でうつ病を発症してしまいます。
そして休職を経て、退職。
ここから、うつ病を抱えても、生活するための糧を得て、自分のできる範囲で、無理せず、社会参加できるビジネスモデルを構築していくのです。

同居している義母(パートナーの実母)の作ったシフォンケーキが美味しかったことをきっかけに、お菓子作りの経験も知識もなく始めたネット販売のちゃんちき堂。
足を負傷させてしまった山登りの代わりに、有酸素運動を取り入れた、リヤカーでシフォンケーキを行商するスタイル。

販売する場所を目立たせず、本人も声をかけにくくされるための努力など、普通なら考えにくいことも面白かったです。
生活するための目標売上を維持し続けられるのは、ひとえに温かいファンの存在だと思いました。
理解あるお客様と、ユニークな仕入れ先の方々。それぞれに物語があり、てつさん、シフォンケーキにも特別感がありました。

うつ病の波や、パニック障害など、病気特有の困難はもちろん書かれてあります。
でも、ビジネスマーケティングを提示してくれるので、うつ病体験記として読むもよし、小商いの開業を考える人が読むもよし、の作品です。

評者プロフィール


實山美穂(じつやま・みほ)
大学で心理学などを専攻し、卒業後、文信堂書店に入社。文芸書・ビジネス書他担当。文芸書担当を機に本屋大賞エントリー店となり、新書担当を機に新書大賞の投票に参加し、興味の赴くまま御書印プロジェクトにも参加。基本、本を読んで猫と遊んでいれば満足。2023年4月10日をもって、文信堂書店長岡店がCoCoLo長岡より撤退。それにあわせて文信堂書店を退社し、今に至る。小説丸の、書店員さんのコラムに参加。

公式サイト・SNS
小説丸|週末は書店へ行こう!目利き書店員のブックガイド(vol.98)
note|御書印プロジェクト(公式)

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