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【書評】『自分という壁 自分の心に振り回されない29の方法』(評者:河合南/書店店主)

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古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします。

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自分という壁 自分の心に振り回されない29の方法
大愚元勝 著
アスコム
2023年3月発売

書評

いままでメンタル本大賞の候補になってきた本は、心理学、精神医学に携わる方の著書が多かったと思うのですが、これは珍しい宗教の専門家=僧侶による著書。

最初は、「お坊さんのお話は確かにありがたいけど、メンタル本になり得るのかな?」と少し懐疑的だったのですが、自分のメンタルのとらえ方、心を落ち着かせる方法など、心理学や精神医学からくる技法と重なる部分も多く、メンタル本としても「つかえる」本だと思いました。

例えば、

仏教のテーマはずばり「心」です。
自分の心と向き合い、その動きや反応を徹底的に見つめ、感情の移ろいを冷静に分析していくことで、悩みや苦しみを手放し、安定した、おだやかな心を養っていくことを目指しています。

出典:『自分という壁 自分の心に振り回されない29の方法』大愚元勝 著/アスコム(5ページ)

という考え方は、心理学の認知行動療法に通じると思います。

また、自分の外側にある基準に従う他人軸のもとに生きるのではなく、自分自身の内側から出てくる感覚に従う自分軸の大切さを説く部分など、他のメンタル本でよくみる理論に近しいことも語られています。

なので、つい「仏教って心理学に似ている!」と言いたくなってしまうのですが、著者も語っている通り、世の中に現れた順番を考えるとこれは「逆」。
心理学の方が、紀元前5世紀から連綿と続いてきた仏教の教えと似ていることになるのです。

「心に平安を得るために、いかにして苦しみを手放すか」というテーマに向き合う時、科学(医学)と宗教(仏教)というアプローチの方向性は違っていても、最終的に到達する地点が近しいものになるのは、必然なのかもしれません。

2500年もの歴史があるだけあって、仏教の教えに込められている意味合いは深遠です。
人によって解釈が変わってくるような「余白」も大きくとられている。
その深さゆえ、一朝一夕では理解できない部分も大きいかと思います。

しかし、ブッタの教えを説く著者の言葉は本当に明快で論理的。
読みやすいビジネス書の文体で、仏典の教えを説明してくれます。
また、理解しがたい部分、この本にまとめるには複雑に過ぎる部分を、「端折る」処理も極めて適切です。
事業家、整体のセラピストという顔も持っていた著者ならではの「翻訳力」だと思いました。

これ一冊で仏教の教えを完全に理解することは難しいでしょうし、それを目指している本でもありません。
ただ、理解できない部分も受け入れつつ、心をおさめるトレーニングとして仏教に触れること、そうすることで救われる部分も大きいのではないでしょうか?

評者プロフィール


河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。

公式サイト・SNS
百年の二度寝ホームページ
百年の二度寝 Twitterアカウント(@mukadeyabooks)

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