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【書評】『自分という壁 自分の心に振り回されない29の方法』(評者:きょう)

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Xなどでメンタルケアや自分らしく生きる方法を心理学と生科学の視点から発信している きょうさま(製薬会社 主任研究者)より書評をお届けします!

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自分という壁 自分の心に振り回されない29の方法
大愚元勝 著
アスコム
2023年3月発売

書評

この本は仏教の教えに基づき、自己理解と感情の管理を通じて、日常生活での悩みや苦しみを軽減してくれる1冊です。

主な内容としては以下のようなものがあります。

悩みの根源

悩みや苦しみは他人によって引き起こされるのではなく、自分自身の心に起因しています。
思い込みや妄想、他人との比較が心に「壁」を作り、それがストレスや不安を生む原因となります。
これらの「壁」を認識し、乗り越えることで、より穏やかな心で生きることができるとしています。

怒りとその管理

怒りは他人からの期待が裏切られたときに生じる感情であり、著者はこの感情をどう扱うかについて具体的な方法を示しています。
特に、「勝手な期待」が怒りを引き起こすことを理解し、その期待を手放すことが重要だと強調しています。

無知と不安

不安は未来への想像力から生まれるものであり、その正体を見える化することで対処可能です。
著者は、不安を感じた際にはその原因を明確にし、具体的な行動に移すことが大切だと述べています。

心のクセの修正

ネガティブな感情に溺れないためには、心の中を「善いもの」で満たす習慣を作ることが重要です。
著者は、日常生活でポジティブな思考を育むための具体的な方法も紹介しています。

本書は自己理解を深め、自分自身の感情や思考パターンを見直すことで、より良い人生を送るための実践的なアプローチを提供しています。
多くの人々との対話や経験から得た知見を基に、読者が自分自身と向き合う手助けになると思います。


研究者としての視点からも非常に示唆に富んだ内容です。

研究職は成果や締切に追われることが多く、また新たな仮説検証や競争の中で、いかに心のバランスを保つかが課題となります。
特に、他者との比較や、計画通りに進まないことへの焦りは多くの研究者が抱えるストレス要因であり、自己理解と感情の管理が必要不可欠です。

本書が説く「悩みの根源は自己の心にある」という考え方は、こうした状況でも冷静に内省し、落ち着いて進むためのヒントになると感じました。

加えて、怒りや苛立ちといった感情についてのアプローチも、研究者にとって非常に有用です。
研究者は多くの異なる専門家と協働し、実験やプロジェクトの進行が予測と異なる方向に展開することがしばしばあります。
こうした状況で他者の行動や結果に対して抱く「勝手な期待」が、時に苛立ちを生むこともありますが、期待を手放す重要性を強調した本書のアドバイスは、無駄なエネルギー消耗を避け、目の前の課題に集中するための一助となるでしょう。

また、不安との向き合い方についても、研究者にとって特に役立つ内容です。
研究開発は不確実性の連続であり、長期にわたり成果が見えない時期もあるため、将来に対する不安が伴います。
本書が提案する「不安を具体化し、解決可能な形に落とし込む」という方法は、どのように状況を進めるべきか考える際に冷静な判断を促し、前向きに行動を続けるための指針となります。

本書は、メンタルケアを必要とする現代の研究者にも有用な指針を提供しており、自己理解と感情の管理を通して、研究生活における精神的な充実と成果向上をサポートするものとして、多くの人にとって必読の一冊だと思います。

選考委員プロフィール


きょう
静岡県出身。大学院を卒業後、新卒で外資系製薬会社に入社し研究職として勤務。幼少期の家庭事情から心の問題にも強い関心がある。現在は、会社員として創薬研究に携わりつつSNSを用いた情報発信に取り組み、心身の健康に貢献する活動もしている。Xでは「科学的根拠に基づいたメンタルケア」を主に発信中。

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