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【書評】『もうあかんわ日記』(評者:きょう/製薬会社 主任研究者)

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Xなどでメンタルケアや自分らしく生きる方法を心理学と生科学の視点から発信している きょうさま(製薬会社 主任研究者)より書評をお届けします!

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もうあかんわ日記
岸田奈美 著
ライツ社
2021年5月発売

書評

この作品は、彼女自身の家族の困難な状況を描きながら、ユーモアを交えて日常の悲劇を喜劇に変える力を示してくれます。

物語の中心には、父の死、母の大手術、ダウン症の弟、そして認知症が進行する祖母という複雑な家族構成があります。
これらの出来事が重なり合い、岸田は「もうあかんわ」と感じる瞬間が続出しますが、その中でも彼女は笑いを見出し、読者に共感と癒しを提供します。

彼女は「人生はひとりで抱え込めば悲劇だが、人に語って笑わせれば喜劇だ」と述べており、この考え方が作品全体に貫かれています。
エッセイは、著者が直面する現実的な問題や感情を赤裸々に描写しつつも、それを軽妙なタッチで表現しています。
例えば、母の入院中に起こる家庭内の混乱や、祖母とのコミュニケーションの難しさなどがユーモラスに描かれています。

彼女は、他人に語ることで自らの苦悩を軽減し、同時に読者にも笑いを提供することを目指しています。
この作品は、単なる家族の物語ではなく、現代社会が抱えるさまざまな問題—介護や家族の絆、そして個人のアイデンティティ—についても考察しています。

本書は、困難な状況でも笑いを忘れずに生きることの大切さを教えてくれる作品であり、岸田奈美自身の成長と家族への愛情が色濃く反映されています。


日々の仕事には失敗や困難がつきものであり、それをどう乗り越えるかが非常に重要です。
研究の過程でも、うまくいかない実験や失敗に落胆しつつも、同僚や仲間とそれを共有し、笑い飛ばすことは精神的な回復にとって大きな力になります。

彼女のエッセイには、このような「語ることで救われる」という生き方の智慧が随所に詰まっており、それは仕事や日常生活でのストレスを軽減するためのヒントとしても受け取れるものです。
また、本書は単なる家族の物語に留まらず、家族という枠を超えた普遍的なメッセージを伝えています。

研究者としても、患者やその家族が直面する課題や感情に寄り添う視点は重要です。
医薬品開発の現場では、患者やその家族の生活の質をどのように向上させるかが常に問われています。
この物語は、こうした現実をユーモラスに描きながらも、彼女が家族に注ぐ深い愛情と絆を感じさせるものであり、日々の仕事においても思い出しておきたい「人の苦しみに寄り添う姿勢」の大切さを思い出させてくれます。

本書は、重いテーマを軽妙な筆致で語り、困難の中でも日常に潜む笑いを見つける大切さを教えてくれる一冊です。

選考委員プロフィール


きょう
静岡県出身。大学院を卒業後、新卒で外資系製薬会社に入社し研究職として勤務。幼少期の家庭事情から心の問題にも強い関心がある。現在は、会社員として創薬研究に携わりつつSNSを用いた情報発信に取り組み、心身の健康に貢献する活動もしている。Xでは「科学的根拠に基づいたメンタルケア」を主に発信中。

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