Xなどでメンタルケアや自分らしく生きる方法を心理学と生科学の視点から発信している きょうさま(製薬会社 主任研究者)より書評をお届けします!
ヒキコモリ漂流記 完全版 山田ルイ53世 著 KADOKAWA 2018年8月 |
書評
この作品はお笑い芸人である山田ルイ53世が著した自伝的エッセイで、彼の引きこもり経験とその後の人生の再生を描いています。
彼が中学1年生の途中から20歳までの6年間、引きこもり生活を送った背景や、その後の人生の変遷をユーモアを交えて綴っています。
本書の主なテーマとして以下のようなものがあります。
引きこもりと社会との関係
著者は、自身の引きこもり経験を通じて、社会がどのように人々を受け入れるべきかについて考察しています。
彼は、「何も取り柄がない人間がただ生きていても責められない社会が正常だ」と語り、引きこもりという状態が必ずしも悪いことではないという視点を提供します。
自己認識と成長
引きこもりから脱却する過程で、著者は自分自身を見つめ直し、成長していく様子が描かれています。特に成人式を迎えた際、自分が周囲から置いていかれていることに気づき、それが彼に行動を起こさせる契機となります。
ユーモアとペーソス
文章全体にはユーモアが散りばめられており、辛い経験を笑い飛ばすことで読者に共感を呼び起こします。
著者は、自身の過去を赤裸々に語ることで、多くの人々に勇気や希望を与えています。
社会へのメッセージ
最終的には、著者は「優等生こそ危ない」というメッセージを伝えています。
表面的には成功しているように見える人々でも、内面では苦しんでいる場合があることを示唆し、より多様な生き方や価値観を受け入れる社会の必要性を訴えています。
研究者として本書の内容に特に共感したのは「社会の多様な価値観の受け入れ」がテーマの一つとして描かれている点です。
精神的に不安定な時期を過ごす若者や引きこもり経験者が社会に復帰するには、周囲の理解が欠かせません。
社会が個人に無理な期待を押し付けることなくその多様なあり方を認めることが、当人の自己肯定感の回復に大きく寄与することを著者の経験を通して示唆してくれていると思いました。
自身の辛い経験をユーモアを交えながら描写する姿勢も、読者にとって心の支えとなり得るでしょう。
また本書が素晴らしいと感じた点として、電子版では精神科医との対談が収録されており引きこもりをアカデミックな視点からも掘り下げていることです。
これは引きこもり経験者やその支援者または研究者にとって、問題の根底にある心理的要因や社会的な見解についての理解を深める貴重な機会となっていると思います。
引きこもりや精神的な不安を抱える人々にとっても、また支える立場にある人にとっても貴重な一冊であると感じました。
選考委員プロフィール
きょう
静岡県出身。大学院を卒業後、新卒で外資系製薬会社に入社し研究職として勤務。幼少期の家庭事情から心の問題にも強い関心がある。現在は、会社員として創薬研究に携わりつつSNSを用いた情報発信に取り組み、心身の健康に貢献する活動もしている。Xでは「科学的根拠に基づいたメンタルケア」を主に発信中。
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