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【書評】『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』(評者:寺田真理子/日本読書療法学会会長)

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2022選考委員MVP賞を受賞。日本読書療法学会を設立して、読書セラピーの研究と実践を続けてきた寺田真理子さまより書評をお届けします!

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誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド
ハラユキ 著/星野概念 監修
KADOKAWA
2023年11月発売

書評

うつになると、不安でたまらなくなってしまうものです。

「こんな思いをしているのは自分だけなんじゃないか……」
「このままずっと治らないんじゃないか……」

そんな不安に押しつぶされそうなときに、自分と同じ思いをしている人の存在を知ることや、その人がどうやって回復していったのかを知ることは、とても励みになってくれます。

本書では著者のハラユキさんがその体験談をコミックエッセイで伝えてくれているので、うつであまり文字が読めない状態でも、読み進めやすいと思います。

ハラユキさんは、ささいなことで涙が止まらなくなったときに、自分が思うより弱っていることに気づいたといいます。
私も通勤途中に涙が止まらなくなった経験があるので、当時の自分に重ね合わせて読みました。

私の場合は「うつ病」と診断されることによる偏見や薬への不安が強く、医師にかかることはありませんでした。
クリニックの近くまで行ったものの、周囲をうろうろして引き返しただけでした。

その当時に比べてうつに対する理解はかなり進んだと感じますが、それでも自分がその状態になったとき、精神科にかかるのはハードルが高いのではないでしょうか。
そんな方にとって、本書に登場する精神科医K先生のこの言葉は、気持ちを楽にしてくれるのではないかと思います。

その症状に困っていて、周りに相談できる人がいなければ行っていいのでは?
少なくとも私はそう考えています

出典:『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』ハラユキ 著、星野概念 監修/KADOKAWA(34ページ)

とはいえ、病院に行ってもすぐに治るわけではなく、薬の副作用や診療時間の短さなどに心配になることもあるでしょう。
実際、大量の薬を処方する病院がないとは言えませんし、医師への不信感からドクターショッピングを繰り返して長期化してしまう方もいます。

薬の服用について、監修者で精神科医の星野概念先生は、医師と話し合うことを勧めています。

薬が怖いのは僕は当たり前だと思います。
(中略)薬が怖いのならば、それを話してみることはとても大切なことです。

出典:『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』ハラユキ 著、星野概念 監修/KADOKAWA(60ページ)

薬に対する不安を抱え込まなくていいし、医師もそれを理解して一緒に考えてくれるなら、気持ちもかなり軽くなるのではないでしょうか。

また、医師の選び方について、星野先生はこうアドバイスしています。

相性があると思うので、行ってみて合わなかったら自由に変える(中略)美容師さんとの出会いに似ているのではないかと感じることがあります。

出典:『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』ハラユキ 著、星野概念 監修/KADOKAWA(43ページ)

医師を変えるというのはすごく大変なことに思えますが、これくらいカジュアルに考えていいと知ると、肩の力が抜けますね。

どうしても仕事を休めないと思いこんでいる方には、首相在職中にうつ病になったというノルウェーのボンデヴィック元首相のエピソードと、それを受けてのハラユキさんの言葉が励みになると思います。

出典:『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』ハラユキ 著、星野概念 監修/KADOKAWA(109ページ)

ストレッチやアファメーションなど、ハラユキさんが試したセルフケアの方法も、取り入れやすく、参考になるでしょう。
少し珍しいところでは、「スパイスの強いカレー」が挙げられていました。
体質に合う方なら、突破口になってくれるのかもしれません。

がんばってきた方ほど、うつの自分とのギャップに苦しみ、早く治さなくてはと思い、自分を責めてしまうものです。
だけどそうすると、余計に苦しくなってしまうんですよね。

すごく元気じゃなくていいんですよ
普通でいいんです

出典:『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』ハラユキ 著、星野概念 監修/KADOKAWA(157ページ)

ハラユキさんの担当医の備瀬先生のこの言葉をお守りにしながら、本書を片手に、焦らず少しずつ、回復の道を歩んでいけますように……。

評者プロフィール


メンタル本大賞2022 選考委員MVP賞
寺田真理子(てらだ・まりこ) 

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在し、ゲリラによる日本人学校脅迫や自宅の狙撃を経験。東京大学法学部卒業。多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演・執筆・翻訳活動。読書によってうつから回復した経験を体系化して日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。また、うつの体験を通して共感した認知症について、パーソンセンタードケアの普及に力を入れている。著書、訳書多数。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

心と体がラクになる読書セラピー
寺田真理子 著
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2021年4月発売

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