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【書評】『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(評者:平光源/精神科医)

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選考委員の平光源さま(精神科医)より、ノミネート作品の書評をお届けします!
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職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全
井上智介 著
大和出版
2019年8月発売

書評

メンタル本大賞ノミネート作品の書評シリーズ。
今回の書評は、井上智介先生の『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)です。

この本のいいところを3つにまとめて解説しますね。

1.基本中の基本がしっかりと書いてあるメンタル本入門の本

本を書くときに、「こんなこと言わなくても分かってるだろうなぁ」と書くのがためらわれることや、以前出た本とかぶるような内容が「これはあたりまえでちょっと読者が退屈するので」と編集者によって削られたりすることがあります。

でも実際に患者さんとお話をしていると、

「先生に『無理しないでね』と言ってもらえたことが本当に救いになりました。それから無理をしないでいたら、うまく仕事ができるようになりました。本当にありがたかったです」

このように、よく言われます。

何千回もアドバイスをしている身としては、

「えっ、そんなことでいいの」

というような基本中の基本を伝えることがとっても大切なことを痛感させられます。

その点、この本にはしっかりと無理をしないでということが、

「60点狙いでいこう」
「脳を『シングルタスク』に切り替えれば仕事が片付く」

というように、奇をてらうことなく、平易な表現で具体的に書いてあります。

もし、「100点満点の理想どおりの自分」でないとダメだと心に決め、そしてそのために必死になって100点を取ったら、人はその後、どのようになるでしょうか。
答えは、「次回も100点を取らないと自分のことを許せない」という、まったく「余裕のない自分」が形成されてしまいます。
それはつまり、心に常に負荷をかけ続け、ゴールのないマラソンにチャレンジすることと同じです。

出典:『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』井上智介 著、大和出版(p33)

ネットやSNSが発達した現代では、仕事が終わって職場を離れても、家で仕事をすることになったり、上司・部下から連絡が来るケースがよくあります。
つまり、職場を離れたからといって仕事が終わりではなく、ずっと仕事が続いている状態です。そのような時間感覚だと、脳はシングルタスクになることができません。そのため、連続性を断つ必要があるのです。(中略)

意識して、一人の時間を作り、1つのことに集中する。
この脳のシングルタスクを何度も重ねていくことで、脳を休ませるだけでなく、シングルタスクを行う思考回路が身につきます。
ちなみに、このシングルタスクを行っている時は、今という一瞬に集中することになります。それは将来の不安を消し去り、今自分が何をすべきか、今自分が何をやりたいのかという発想につながっていきます。

出典:『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』井上智介 著、大和出版(p177・179)

なぜ必要かということも医学的な視点からも書かれてあるので、納得感も十分。

さらに「どうしたら患者さんに伝わるのだろう」と苦労されているだけあって、多くの患者さんを見てこられた先生だからこそのお言葉によって、わかりやすく読みやすい本になっています。

2.精神科医と産業医の間のバランスのとれた本

これは実際に調子を崩された方しか分かりませんが、職場の産業医と、精神科主治医の意見がずれることが結構あります。

例えば、精神科医として、「70%は回復した。あとは徐々に慣らしていきながら、復職していった方がいい」と判断し、復職可能の診断書を書いたとしましょう。

しかし産業医が、「ちゃんと100パーセント仕事ができるようにならないと危険なので、復職を許可できない」として振り出しに戻ることがあります。

一番困るのは間に入った患者さんなので、私も責任を痛感して産業医の資格を取得しましたが、本当に立場によって見方が変わってしまうので、「ちょうどいい」を決めることはとっても難しい問題なのです。

その点、この本は両方の立場から見た患者さんに対するアドバイスがたくさん詰まっています。

例えば、職場に嫌な上司がいる場合は「メタ認知を使ってラフに受けながす」、嫌な奴と付き合うときは「期間限定思考をする」などアドバイスがとても具体的です。

精神科医が「無理せず休みなさい」で終わるアドバイスに加えて、産業医として「嫌な上司とどう付き合うか」がきちんと述べられています。

このバランス感覚と起承転結感。
メンタルが不調になった方には、本当に心の支えになる本です。

3.具体的なリラックス法などたくさんのメンタルハックが詰まった本

先ほど述べたように、困った上司に対しての心構えや、仕事の断り方の具体的な方法など職場で困っている方の強い味方になってくれる本ですが、この本はそれだけでは終わりません。

例えば温泉療法医としてのお風呂の効能や入り方、アロマの精油の選び方など、家での具体的なリラックス法までに言及されています。

また、「疲れたときほど甘いものを食べない」など、普段私たちがしてしまいそうなことを医学的に解説してくれています。

最近は、メンタル面において、人生の質を向上させるテクニックとノウハウを集めたものをメンタルハックと呼ぶようですが、医師からみると……(?)の内容があることも事実。

精神科医・産業医が医学的根拠に基づいて伝えてくれる内容に、非常に安心してその方法を試すことが出来ます。

まとめ

この本を一言でまとめると、

「メンタルハックがてんこ盛りのバランスのとれたメンタル本入門書」

です。

「この本で働く人を少しでも楽にしてあげたい」という先生の人柄があらわれた、わかりやすくて読みやすい、明るくて優しい素敵な本です。

職場で上司にどう対応していいかわからない方や断り方で困っている方、産業医と主治医の間でどちらの意見に従ったらいいかわからない方、リラックスしたいのに出来ない方などにぜひぜひお勧めしたい本だと思います。

井上先生、すばらしい本をありがとうございました。

出典:平光源さまFacebook投稿(2021年7月23日)

評者プロフィール

2022 優秀賞・2021 選考委員MVP賞
平光源(たいら・こうげん)

東北地方でクリニックを開業している開業医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。
3年浪人してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約20年精神科医として心のケアに当たる。
支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。

メンタル本大賞2022 ノミネート作品

あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから
平光源 著
サンマーク出版
2021年4月発売

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