書評

【書評】『あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから』(評者:河合南/書店店主)

古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします!

あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから
平光源 著
サンマーク出版
2021年4月発売

書評

一読して感じたのは、「お守りみたいな本だな」と言うことです。

「これを読んで学ぼう!」と前のめりに読みふける本というよりは、しんどくなった時、もしくはなりそうな時に、ひろい読みをして心をいたわるための本。
一章あたりの文字数が少なく、著者の語り口もやさしいので、精神的に落ち込んでいる時も自分のペースで読むことができます。

仮に落ち込みがひどすぎて1ページも読めないとしても、タイトルを読むだけで心が少し落ち着く気がしませんか?

「あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから」

精神的に弱っている状態の時、誰かがこんな言葉をかけてくれたら、どれだけ心安らぐことでしょう。

あなたは「まつたけ」

著者の平光源さんは、東北で臨床をされている精神科医です。
平さんの文章を読んで感じるのは、その「例える力」が素晴らしいということ。

この本の第一章は、「突然ですが、あなたは『まつたけ』なんですよ」という例え話から始まります。

繊細でデリケートなまつたけは日本料理では活きますが、インド料理店で食材として活躍するのは難しい。
しかし、インド料理に合わないからといって、まつたけそのものの価値が減じることはありません。

いまはおかれた場所はあなたにとってアウェイだからなかなか適応できないけれど、それは世界中のどこに行っても適応できないことを意味しません。
世界にはまつたけの持ち味を活かしてくれる場所もたくさんあるはずなのです。

置かれた場所で忍耐強く咲く(=インド料理にも合うエリンギのような活路を見出す)選択も、自分を活かしてくれる場所を目指して旅立つ(=料亭をさがす)選択もあり得る。

いまの場所で上手く自分を活かせないからといって、自分には何の価値もないと思い込んでしまうのは早計だと、著者は唱えているわけです。

例え話の効用

精神疾患を抱えていたり、精神的に弱ってしまっている時、人は「視点を移動させること」がとても困難になります。
そうなってしまった人間は往々にして、「自分の居場所はどこにもないし、居場所を作りだせない自分には価値がない」という結論にしがみついてしまう。

そんな状態に陥っている人間を、思い込みから脱するよう諭してくださる人はたくさんいらっしゃいます。
とてもありがたいことなのですが、自分の視点にしがみついている人間が、その思い込みから脱却するのはかなり難しい。
思い込みを否定されること=自分自身を否定されることだと感じて、かえって意固地になったりもします。

でも、「あなたはまつたけなんです」と言われたらどうでしょうか?

変化球に面食らって一瞬ガードが下がるかもしれない。
なぜまつたけなのかが気になって話を聞いてしまうかもしれない。
そして、そのユーモアで硬くなった心が少しほぐれるかもしれません。

例え話やユーモアにはそういった効用がありますし、沢山の方を診察してきた著者は、その効用を十分理解して使いこなしていらっしゃると感じます。

一貫した読者に対する姿勢

本書のもう一つの美点は、著者の個人的な体験、その時思い知った自分の弱さを、包み隠すことなく開示していることです。

本書の終盤では、「罪悪感」がいかにたやすく心に忍び寄るか、それがいかにして人の心を蝕んでいくのかが説かれますが、著者自身が人生を歩むなかで罪悪感に苛まれた経験をしているからこそ、そしてその経験を誤魔化すことなく誠実に語っているからこそ、その記述には説得力があります。

いま苦しんでいる人に、高い位置から何かを説くのではなく自分が当事者と同じ平場まで降りて語り掛ける。
語り掛けはやさしく、ユーモアを忘れずに。
著者の姿勢は一貫してます。

このタイトルがこころに刺さった方、自分自身に価値がないという思いが振り払えない方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

評者プロフィール


河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。

公式サイト・SNS
百年の二度寝ホームページ
百年の二度寝 Twitterアカウント(@mukadeyabooks)

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