公認心理師、やりたいこと探し専門心理カウンセラーの中越裕史さまより書評をお届けします!
セルフケアの道具箱 伊藤絵美 著/細川貂々 イラスト 晶文社 2020年7月発売 |
書評
僕、この本。すごく好きです。
こういうワークがたくさん載っている本って、普段あまり読まないのですが、この本はすごくよかったです。
なんというか、丁寧でやさしいのです。
継続できない人には嬉しい低めのハードル
ワークは全部やらなくていい、気に入ったものだけやればいいとか、本当にしんどいときは自分の体をなでてあげるだけでいいとか、とにかく丁寧でこういうワークをやるときになかなか上手くできない、継続できない人のことを考えてあります。
さらに、100個もワークがありその中で気に入ったものだけをやればいいスタイルなので、たしかにどんな人でも一つや二つは、自分に合うものが見つかると思います。
僕の場合は、10個くらいは自分に合いそうな物が見つかりました。
そして、やってみると思っているより効果があります。
たとえば、紙に書き出すなんて、誰もが聞いたことがあるようなことかもしれません。
でも、実際にいまの自分がどんなしんどさを抱えているのか、紙に書き出す習慣を持っている人は、本当にごくわずかです。
スマホを使ってもいい…… 書き出すことのメリット
僕たち心理職でさえ、それを習慣にできている人はなかなかいません。なので、久しぶりにやってみると、「ああ、紙に書き出すだけでこんなに気持が楽になるんだ…」と実感しました。
逆に、希望について書き出すところもあり、これも実際にやってみると少し気持が元気になりました。
本書のいたるところに、上手くできなくていいとか、スマホにメモするだけでいいと書いてくれているので、取り組むだけのハードルがかなり下がっています。
こういうワークって、上手くできなくて逆に落ち込んでしまうこともあるのですが、この本はその辺の読者の気持ちを本当にうまくフォローしています。
やさしさの理由
なぜこの本はこんなに丁寧でやさしいのだろう。
そう思いながら最後まで読み進めると、その理由がわかりました。
著者の伊藤絵美さんが、メンタルの不調に陥り自分自身を癒やすために、自分自身のために書いたそうです。
こんなにベテランでこの分野で本当に有名な先生が、こんなにも正直にそのことを自己開示して、自分のために書いたものを一般の方にもわかるように丁寧な言葉で表現してくださったことには、本当に驚きました。
自己開示の難しさ
心理職に就いている人間が、自分のメンタルの不調を自己開示するのは、本当に勇気がいります。
実は僕自身、30代前半のころメンタルの不調に陥りました。
そしてそのときに、自分自身をいやしていくために、大切なことを毎日食卓のメモに書き連ねていきました。
それを数年後、『うつな気分を手放す方法 微笑みの練習帳』として出版しました。
ただ、やはり心理職である自分がメンタルの不調を自己開示するのは、すごく怖かったです。
ユングだって中年の危機があったのだから、何も恥ずかしいことでもカッコ悪いことでもないし、そういうことを経験してよりよいセラピストになれるのだけど、やっぱり「クライエントさんに、頼りないカウンセラーと思われたらどうしよう…」と不安になります。
当時の僕ですらすごく勇気が必要だったのですから、この著者のようにベテランで有名な先生であれば、その勇気は本当に驚くほどのものだと思います。
でも、その渦中で書いた作品だからこそ、丁寧さとやさしさに満ちあふれているのかもしれません。
そして、それでもこの本はしっかりとしたエビデンスに基づいて書かれており、決してただの体験談ではありません。
僕自身、「あ、このワーク、うちのカウンセリングにも取り入れてみようかな」と思うものが、いくつかありました。
そのどれもが本当にわかりやすく読みやすい言葉で書かれています。
こういうものが「良書」というのだと思います。
いい本をありがとうございました。
評者プロフィール
中越裕史(なかごし・ひろし)
公認心理師。やりたいこと探し専門心理カウンセラー。1979年生まれ。大学卒業後、リフォーム会社、営業代理店を経て猛勉強のすえカウンセラーになる。独自の考え方を提唱し、2005年より「天職探し心理学 ハッピーキャリア」を運営。社団法人日本産業カウンセラー協会認定 産業カウンセラー。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。
日本一やさしい天職の見つけ方 中越裕史 著 PHP研究所 2019年9月発売 |
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