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【書評】『どうする? 家族のメンタル不調』(評者:河合南/書店店主)

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古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします。

集英社様許諾書影『どうする? 家族のメンタル不調』井上智介 著(集英社) どうする? 家族のメンタル不調
井上智介 著
集英社
2022年11月発売

書評

この本の良いところは、著者からのアドバイスが大変具体的であることです。

家族が精神疾患にり患すると、不安に思うこと、わからないことは本当にたくさんあると思います。

産業医、精神科医として経験を積み重ねてきた著者は、家族が精神疾患だと診断された時点から、社会復帰に向けて再始動する時、あるいは別離を決断する場面まで、患者家族が不安に思いがちなこと、つまづきの石となりかねないことを、ひとつひとつ丁寧にひろいあげ、精神論や抽象論に流れない、明快なアドバイスをしてゆきます。

うまくいかなかった場合のアドバイスがあるのが嬉しい!

著者のアドバイスは・・・

「うつ病」と「うつ状態」は似ているようでまったく異なる診断なので、家族が下された診断がどちらなのかを確認しておく。

ほとんどの精神科医はガイドラインに沿った治療をするので、初診の段階で病院選びにこだわるよりは通いやすいところを選んだ方がいい。どうしてもかかりつけ医と相性がよくない場合は3、4か月通ってみてから転院を考えてもまだ間に合う。

と言った具合。

私は精神疾患の当事者なので、この本が想定している読者とは少し立場が異なりますが、本当に、かゆいところに手が届くアドバイスが満載で、自分が病気になりたての頃にこの本を読みたかった。

と、思いました。

また、ひとつのやり方を実現するのが困難だったり、うまくいかなかった場合に備え、ちゃんと「プランB」が提示されるのもありがたいです。

患者がなかなか病院に行くと言ってくれない時。
まずは「あなたを心配している」ということを前面に出して説得すること、それでもうまく説得できないならば最初は内科を受診してもらうという手段もある、と書かれています。

精神疾患に関するトラブルは一筋縄ではいかないものが多いですが、ひとつのやり方が上手くいかなくても、まだ次のやり方があると考えられれば、かなり気持ちが楽になりそうです。

常に患者とその家族に寄り添い、わかりやすい方法論を提示する著者は本当に優しい方だと思います。

家族として必要な当事者に向き合う覚悟

しかし、この本は優しいけれど、決して甘くない本です。

この本に繰り返し登場するのが、「覚悟」という言葉。
ここで言われる「覚悟」は、よく言われる「全てをなげうって患者を支える覚悟」ではありません。

自殺未遂、DV、など深刻な出来事が起こった時に、その深刻な現状から目を逸らさず、緊急入院や通報など厳しい決断もする覚悟、何が起こってもまず自分自身の生活を守り抜く覚悟です。

そして、病気が完全に治ることや、以前と全く同じ幸せが戻ってくることを期待しすぎない。いまの状況に向き合う覚悟でもあります。

家族が一度病を得てしまった以上、どうしても受け入れられない現実、変えたくても変えられない現実に直面することは、本当に多いと思います。

「受け入れられないものを変える勇気、変えられないものを受け入れる落ち着き、その二つを見分ける知恵」

本書で語られている「覚悟」には、この格言と近しいものを感じます。

イラストがとにかく可愛らしい!

私が書店でこの本を手に取ったのは、表紙のイラストがとにかく可愛らしかったからです。

グレーの雲みたいなものにふたつの目玉が付いたイラストは、精神疾患当事者やその家族の「モヤモヤ」をキャラクター化したものだと思いますが、なんともゆるい表情が絶妙で憎めません。

この「モヤモヤ」君は本文のあちこちに顔を出しており、読み終わったらみんな彼らのことが好きになってしまうはず。

こういった仕掛けやちょっとしたあしらいにも愛があふれた、とても素敵な本です。

評者プロフィール


河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。

公式サイト・SNS
百年の二度寝ホームページ
百年の二度寝 Twitterアカウント(@mukadeyabooks)

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