古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします。
あなたの「しんどい」をほぐす本 Poche 著/もくもくちゃん イラスト KADOKAWA 2022年12月発売 |
書評
表紙のすこしでこぼこした紙にさわった瞬間思いました。
「この本、さわってるだけで癒される……」
紙のでこぼこと、もくもくちゃんさんによるクレヨンのような線のイラスト、帯の強すぎない書体など、すべての点においてやわらかく、やさしく、読者の負担にならないように、しかしこだわりぬいて作られているパッケージングに、まず脱帽です。
そのこだわりは、本の中においても貫かれています。
実物を手にしてほしい!「読者を和ませる」工夫
本文は、水色と黒の2色印刷。
昨年からいくつも「メンタル本」を見てきて、この分野の本には黒と水色の二色印刷のものが多いという印象を得たのですが、この本で使われている「水色」は、恐らく通常の2色印刷で使われる水色とは違う色です。
ややうすめの、ソーダ水のような可愛らしい色で、見ているだけで和んでしまいますし、若い読者にも受け入れられそうです。
更に、この水色をきっちりと塗るのではなく、ややずらしたり、すき間を開けて使っておられるのも、こちらの気持ちをやわらかくしてくれます。
本が持つ「物体」としての魅力を、「読者を和ませる」という目的に巧みに生かした一冊。この本に興味を持たれた方は、できれば実物を手にしてほしいと思います。
感じる読者への優しさと頼もしさ
本文を読んだあとも、この本に抱く印象は変わりませんでした。
心理カウンセラーであるPocheさんの文体の特徴は、読み進めるうえでまったくストレスを感じさせない、叱られたりはっぱをかけられている印象も与えない、読者を安心させてくれる和やかさに満ちていること。
「不安な気持ちの原因の一つがセロトニン不足」といった専門的な知見も盛り込まれてはいるのですが、専門的なことを専門的と思わせないかみ砕き方が本当に巧みです。
また、セロトニン不足の対策は、「甘いおやつを一口食べること」など、読者に対する指示は、優しいながらも具体的で明快です。
不安のただなかにあっても、「この通りにすれば何とかなるかも……」という頼もしさもあるのです。
まさに「しんどい」をほぐしてくれる本
もくもくちゃんさんのイラストも、この本には欠かせない要素です。
なんといっても可愛いですし、章ごとに異なる「ちょっとしんどい状態のキャラクター(いぬ、ねこ、ぶたなど動物たち)」と「彼らを和ませるキャラクター(ハート、風船、雲など、ふわふわしたもの)」が登場して、ゆるやかな物語を展開しているのも、本を読み進める楽しさを与えてくれるポイントです。
かわいらしい表紙にプロの技が詰まった一冊。
しかし、そのプロの技を意識せずとも、こわばった読者の心をちゃんとほぐしてくれます。
評者プロフィール
河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。
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