古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします。
がんばらにゃい生きかた Jam 著 笠間書院 2022年5月発売 |
書評
まず、惹きつけられるのは装丁のセンスの良さ。
ピンク色の表紙なのですが、いわゆるどピンクでもパステルピンクでもなく、少しだけオレンジ寄りの色味で、見ているだけで「これはやさしい本ですよ」というメッセージが伝わってきます。
ほんのわずかに使われているやや濃い目のピンクもよいアクセントになっていて、Jamさんのシンプルな画風を活かしています。
パラパラと適当にめくってパッと気持ちが楽になれる
内容ではなくビジュアル面から触れるのは、場合によっては失礼な態度かもしれませんが、この本に関しては失礼に当たらないと考えます。
「はじめに」の部分で著者自身が「文字を減らして絵を増やしたい」「パッと見て楽しんで通り過ぎて」ゆく本を作りたい、と狙いを述べておられるからです。
その狙いは見事に達成されていて、この本からは「最初から最後まで通読しなくてはならない」「内容を理解して自分のものにしなければならない」といったプレッシャーを感じることがほとんどありません。
パッと好きなページを開いて、気が向けばパラパラめくり、気が済んだらいったん本を閉じる、そんなゆるい読み方を許してくれる雰囲気に満ちています。
もっとも、私は書評を書く関係上、律儀に頭からお尻まで通読しましたが……。
もちろん、そんな読み方でもちゃんと楽しめる本に仕上がってますよ。
感じられる著者のこだわりと技術の高さ
読み終わっての印象は、「発想の転換」を導く言葉が多いなということでした。
何かにとらわれ、深く考え込んで、視野が狭くなってしまったとき、物の見方を変えることを教えてくれる、頑なになった心をほぐしてくれる言葉がたくさん掲載されています。
また、他人の評価ばかりを気にする「他人軸」から、自分自身の考えに沿って行動する「自分軸」へ変えてゆくことの大切さも、繰り返し説かれています。
読者がゆるい気持ちで向き合える本は、作り手側までゆるくなってしまうと作り出せません。
この本でも、キャラクターたちのちょっとした表情や、やわらかい描き文字、SNSやサブカルチャーの話題をさりげなく取り込んでクスリと笑わせる匙加減に、Jamさんのこだわりと技術の高さがうかがえます。
とはいえ、読者の側が身構える必要は全くなし!
「がんばりたくにゃ~い」なんて気分の時に、気軽に手に取りましょう。
評者プロフィール
河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。
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