書店員キャリア20年。2023年に閉店した文信堂書店 長岡店では文芸書・ビジネス書を担当。小学館の小説ポータルサイト「小説丸」のコラムにも寄稿経験がある 實山美穂さま(元書店員) より書評をお届けします。
多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。 Jam 著/名越康文 監修 サンクチュアリ出版 2018年7月発売 |
書評
メンタル本というジャンルや、タイトルにつけられた「心理学」「悩み」「ココロ」などなど、ついついハードルや壁を感じてしまい抵抗を持つキーワードって、ありませんか?
以前から、無意識の偏見というか、そういう現象が悩みでした。
私は心理学というジャンルに学生時代から興味がありますし、今、こういう本を読むことにも抵抗はありません。
でも、必要な人こそ読んでくれていないのでは、というモヤモヤも感じ続けてしまいます。
そんな人に朗報です!
この本は、タイトルからしていったいなんの本か推測できませんよね。
かく言う私も初めて聞いたとき、何についての本か予想がつきませんでした。
そして、あちこちで見かけたはずです。
本屋さんの話題書コーナーや専門書の棚に限らず、もしかしたら本屋さんだけだけではなく、コンビニなどにある本のコーナーかもしれません。
メディアで取り上げられることも多かったので、「どこかで見たことあるかも」と思うでしょう。
表紙の可愛らしさと予測つかないタイトル、それがこの本がベストセラーとなり、読むと人にすすめたくなる理由です。
パラッとページをめくってください。
右ページのマンガを眺めるだけでもいいです。
たったそれだけ、1日1ページでいいです。
この『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。』は、第一回メンタル本大賞®をとり、今もなお売れ続けています。
この本が売れてから、Jamさんのイラストを目にする機会が増えました。
私が猫好きなせいだけじゃなく、世間に認知されているせいなのかなと、思っています。
難しいことは書かれていません。
全部の考え方が、読んだ人みんなに受け入れられるわけでもないでしょう。
ただ、ひとつだけでも、思い当たることがあれば、それだけでもココロが軽くなってくるのではないでしょうか。
かわいいキャラクターが目をひくため手に取りやすく、マンガで優しく伝えてくれるので読みやすいと思います。
難しい専門用語もなく、本人の体験から書かれています。
でも、著者の一方的な体験ではなく、いろいろな人が体験するような出来事が書かれているので、どんな人にも受け入れられるように作られています。
その万人受けの良さが、多くの共感を生み、ベストセラーになったのかもしれません。
私が初めて読んだのは、発売して間もなくの頃だったと思います。
今回改めて読んでみて思ったのは、自分の頭の中にもこの白い猫がいるのかもしれない、ということでした。
嫌なこと、理不尽なこと、モヤモヤしたときに、考え方を変えてくれる白い猫です。
本を読む前からこの声はあったかもしれません。
でもこの本を読んだことで、その声は、白い猫の形を取ったのかもしれないと思いました。
情報に溢れている社会のなかで、言葉にできないモヤモヤを抱えている人、そのせいで生きづらさを感じている人におすすめしたい本です。
評者プロフィール
實山美穂(じつやま・みほ)
大学で心理学などを専攻し、卒業後、文信堂書店に入社。文芸書・ビジネス書他担当。文芸書担当を機に本屋大賞エントリー店となり、新書担当を機に新書大賞の投票に参加し、興味の赴くまま御書印プロジェクトにも参加。基本、本を読んで猫と遊んでいれば満足。2023年4月10日をもって、文信堂書店長岡店がCoCoLo長岡より撤退。それにあわせて文信堂書店を退社し、今に至る。小説丸の、書店員さんのコラムに参加。
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