古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします。
多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。 Jam 著/名越康文 監修 サンクチュアリ出版 2018年7月発売 |
書評
なんて秀逸なタイトルでしょうか?
相手の言葉に傷ついて、頭がいっぱいになり、終日くよくよと悩んでしまうことは、誰にでもあります。
でも、たいていの場合、言った当人は何も気にしていないんですよね。
相手のことをいつまでも気にし続けるしんどさと、でも、相手側はそんなことを忘れていると知った時の脱力感。
そんな気持ちを過不足なく表現し尽くしたタイトルだと思います。
Jamさんの著作は、以前書評を書いた『がんばらにゃい生き方』でもそうですが、他人の評価、思惑に引きずられる「他人軸」から、自分自身の考えに沿って行動する「自分軸」への転換というのが、テーマなのだと思います。
実際、カバーの袖の部分には「相手は変えられない。でも、自分の考え方は変えられる。」という言葉が記されていますし。
読み始めて驚いたというか、「いまの時代のメンタル本なんだな」と思ったのは、「SNSのモヤモヤ」という章が冒頭に来ていること。
読者にとっても、著者にとっても、SNSとの向き合い方というのは、それだけ悩ましいし、生活の質を左右する大きなテーマなのだと思います。
この本には、モヤモヤした気持を引きずらないための考え方のコツが、64個書かれています。
まず、モヤモヤの種類(「既読スルーされて落ち込む」「嫌な人や苦手な人がいる」など)が大きな文字で記され、その次にかわいらしい猫ちゃんが主役の4コマ漫画。
その次にそのもやもやに対するJamさんの考えが短い文章で記され、最後に締めの一言(「道具は進化しても、人の事情まで進化したわけじゃない」など)という構成が明快です。
文章の部分は長くなりすぎないように気遣われていますが、それを読むのがしんどいときは、4コマ漫画と締めの一言だけでもちゃんと伝わるようになっています。
文章部分を読んで感じるのは、この本に書かれていることは著者ご自身が、時には痛い思いもして経験してきたことに根差した経験則ばかりで、実に説得力があるということ。
また、「SNSで目に見える幸せは、映画のハイライトだけ見ているようなもの」「嫌な人のことを考えるのは、一緒に住んで家賃を払ってあげてるのと同じ」など、秀逸な「例え話」も、本書の説得力を増すうえで一役買っています。
「他人がどう思おうが気にしない」と言うのは簡単ですが、実行するのはなかなか難しい。
それでも、出来る範囲で少しずつ進んでいこう。
そんな気持ちにさせてくれる本です。
評者プロフィール
河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。
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