選考委員の平光源さま(精神科医)より、ノミネート作品の書評をお届けします!
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「ひとりで頑張る自分」を休ませる本 大嶋信頼 著 大和書房 2019年6月発売 |
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書評
平光源の書評シリーズ
今回は、大嶋信頼先生の『「ひとりで頑張る自分を」を休ませる本』(大和書房)です。
今回もこの本のいいところを3つに分けて説明しますね。
1.人間関係の恒常性について書かれた稀有な本
外来診療で経験することですが、例えば妻が夫の悪口を医師に言っているとしましょう。
その時に、医師が男性の立場で「夫はこういう気持ちなんですよ」と夫をかばう発言をすると、妻はむきになって、「だって先生こんなにひどいんです」とより発言をエスカレートさせることがあります。
そんな時は、逆に「それはひどい」と、妻の味方をするどころか、3倍ぐらい夫の事を悪くいってあげます。
そうすると、なぜか会話のバランスを取る力が働いて、「いや先生、そういいますけど夫もいいところがあるんです」と夫の味方をし始めます。
最終的に、「私の夫にもいいところがある」と満足して帰っていく、精神科外来あるある。
人間関係の恒常性
実体験として面白いと思ってはいましたが、大嶋先生はこれを「人間関係の恒常性」と呼んで、本で一番大切な第一章で詳しく解説してくれています。
「恒常性」とは人に備わっている機能で、「真ん中に戻すと力」が働くこと。
これが人間関係でも働き、最終的には、自分が「いい人」でいようすると、恒常性によって周りに「悪い人」が現れて自分がより消耗してしまうというのが先生の理論。
子どもは親が「いい人」になればなるほど「悪い子」の役割を演じさせられちゃいますから、反抗的な態度を取ります。
出典:『「ひとりで頑張る自分」を休ませる本』大嶋信頼 著、大和書房(p32)
など、それは親子関係にまで波及するそうです。
この現象を「人間関係の恒常性」と名付けてここまで解説した本は、他の書籍には見られませんでした。
「なるほど、そういうことか」と思わずうなる、先生の慧眼が光る稀有な本と言っていいと思います。
2.哲学的で、詩的な不思議な物語
この本は、一見「自分の休ませ方」が10個ぐらいかいてあるだだのハウツー本のように見えますが、実際は、全くそんなことはありません。
その内容は、先ほど述べた「人間関係の恒常性」から始まって、すべての生き辛さの原因が万能感であることにたどり着き、そして真の自分の解放へとつながっていきます。
その内容は、とても哲学的でありつつも、美しい詩のようでもあり、自分を優しく包んでくれる物語のようでもあります。
このじわじわ来る感動は、書評などでは伝えきれないので、是非本書を読んでいただければと思います。
3.万能感を捨てることで、生きる中心が自分であることを確信させれくれる本
万能感とは、「自分は何でも知っているし、変えられる」という感覚のことです。
幼い子供は万能感でいっぱいですが、大人になればなるほど「そうじゃないんだ」と現実がみえてくるのでいい意味で諦める力がついてくる。
それによって、「人は簡単には変えられない」ということも学ぶのですが、「いい人」は、この万能感が強く、例えば他人様に迷惑をかけないようにと、自分がダメな夫や子供をコントロールしようする。
そうすると、相手の気持ちを無視してしまうので、夫や子供はますます反抗して「悪い人」になる。
そして
周りから見ていると「いい奥さん」だったり「いい旦那さん」なので、まさかこの人が相手を破壊している、とは思わないわけです。
出典:『「ひとりで頑張る自分」を休ませる本』大嶋信頼 著、大和書房(p37)
という状況となり、自分の万能感のせいで、そのひどい状況が生み出されることが分かりやすく書いてあります。
先生は、その状況から抜け出す方法として、
「自分は輝く星」と自分に呼びかける
をおすすめしています。
「いい人」が世界の中心になることは、非常に難しいんです。
他人を世界の中心にすることばかりしていましたから、自分を中心にする習慣がありません。
自分を世界の中心にしなければ、世界は歪みます。(中略)「人のために何ができるのかな?」といつものように考え始めたら、まっさきに「自分は輝く星」と脳に呼びかける。
すると、自分が輝くことが大事で、相手に何かをしてあげる必要がない、ということが見えてきます。
そうなんです!自分が光り輝けば相手も美しく輝けるんです。
相手を中心にした時に相手が光り輝かないのは、世界が歪んでしまうから。
だから、その歪みを「自分は輝く星」と唱えることで修正して、自分を中心に据えていきます。
この言葉を習慣にすると、周りの人たちとの距離感が絶妙な感じで取れて、みんなが「いい人」の光に照らされて美しく輝きます。出典:『「ひとりで頑張る自分」を休ませる本』大嶋信頼 著、大和書房(p161-162)
「自分が何でもできる」という万能感を捨てることで、他人へのコントロールを手放し、逆に自分が輝く星となって人に光を与える。
それによって、自分が輝きを増すことで、多くの人を惹きつける。
結果的に相手が変わっていくので、世界の中心が自分であることに気が付く。
そんな宇宙の法則を確信させてくれる素敵な本でした。
まとめ
この本を一言で言うと、
「万能感を捨てることで、生きる中心が自分であることを確信させれくれる美しい哲学書」
です。
「いい人」から抜け出せなくて困っている方や、人間関係に悩んでいる方、他の書籍を読んだがなにかが腑に落ちない方におすすめです。
大嶋先生、素晴らしい本をありがとうございました。
出典:平光源さまFacebook投稿(2021年8月10日)
評者プロフィール
2022 優秀賞・2021 選考委員MVP賞
平光源(たいら・こうげん)
東北地方でクリニックを開業している開業医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。
3年浪人してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約20年精神科医として心のケアに当たる。
支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。
あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから 平光源 著 サンマーク出版 2021年4月発売 |
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