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【書評】『セルフケアの道具箱』(評者:寺田真理子/日本読書療法学会会長)

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日本読書療法学会を設立して、読書セラピーの研究と実践を続けてきた寺田真理子さまより書評をお届けします!

メンタル本大賞®2022 ノミネート作品

セルフケアの道具箱
伊藤絵美 著/細川貂々 イラスト
晶文社
2020年7月発売

書評

「ちょっとしたこと」は、案外あなどれないものです。

ほんの些細なことに見えても、実はそれが落ち込みがちな気分を変えてくれて、ずぶずぶと沈んでしまうのを助けてくれる力を持っているからです。

メンタルが弱ると、少しでも嫌なことがあるだけで

「もう何もかもどうでもいい」

と人生を丸ごと投げ出したくなってしまうものです。

そんなときに目先の気分を変えてくれて、何とか踏みとどまれるようにしてくれる「ちょっとしたこと」を知っているかどうかで、その先の展開が大きく変わってきます。

「ちょっとしたこと」が、生死を分かつ場合すらあるのです。

取り組みやすいワーク

この本は、そんな大切な「ちょっとしたこと」を

「ほら、こんなのもあるよ。これはどう?」

と、手軽なワークにして、優しく差し出してくれます。

100個のワークが紹介されていますが、たいていすぐに取り組めるものです。

もしベッドから起き上がれないような状態でも、

“手を使って身体をなでたり、トントンしたりする”
“ちょっとした顔見知りを思い浮かべる”

ことなら、できそうですよね。

見開き2ページで1ページはイラスト

今の自分の状態に合ったものから少しずつ取り組んでいくことで、まるで筋トレをして筋肉がついていくように、確実に心の筋肉がついていきます。

疲れがひどいときは、あまり文字が読めないので、長いものを読み通すことは難しいものです。

だけどこの本はひとつのワークがほぼ見開き2ページで、しかも1ページはイラストなので、圧迫感を覚えずに読めるでしょう。

書き込み式で効果を実感

自分のうつからの回復プロセスを振り返って、効果が大きかったのは、自分の考え方のくせに気づいて修正することや、感情や思考を書き出して自分の外側に出したこと(外在化)、言葉の使い方を変えたことなどです。

それらもすべて“「~と思った」と、自動思考に気づきを向ける”“「呪いのことば」を紙に書き、くしゃくしゃにして捨てる”という具合に盛り込まれています。

書き込み式になっているので、実際に書き込んで取り組むと、さらに効果を実感できると思います。

ワークの具体例として著者の伊藤絵美さんが「たとえば自分だったら」と例を挙げてくれていて、“好きな人、好きだった人、あこがれの人の名前をかき集め、イメージする”ワークでは、“キャラクターだったら、断然「バカボンのパパ」が大好きです!”という具合。

そんなふうにところどころ登場してくれるのも、気さくで信頼できるカウンセラーが励ましてくれている気持ちになれます。

評者プロフィール

寺田真理子(てらだ・まりこ) 
長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在し、ゲリラによる日本人学校脅迫や自宅の狙撃を経験。東京大学法学部卒業。多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演・執筆・翻訳活動。読書によってうつから回復した経験を体系化して日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。また、うつの体験を通して共感した認知症について、パーソンセンタードケアの普及に力を入れている。著書、訳書多数。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

心と体がラクになる読書セラピー
寺田真理子 著
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2021年4月発売

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