日本読書療法学会を設立して、読書セラピーの研究と実践を続けてきた寺田真理子さまより書評をお届けします!
あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから 平光源 著 サンマーク出版 2021年4月発売 |
書評
うつがひどくて起き上がれなくなってしまった頃、そんな自分を責めていました。
「まわりの人たちはちゃんと働いているのに、そうできない自分はなんてダメなんだろう」と。
そうして責めることで余計に自己嫌悪が募り、死んでしまいたい思いにとらわれていきました。
きっと、同じような思いをされている方も多いことでしょう。
「こうあらねばならない」とか、「こういう自分でなければ価値がない」とか、私たちはたくさんの思い込みに縛られて苦しんでいるのです。
その思い込みから自由になれればずっとラクになるのに、自分の力でそうするのは、とても難しいものです。
そもそも自分では思い込みに気づけないものですし、周囲を見回しても、お手本にできるような人はなかなか見つけられないからです。
思い余って精神科に行ってみたものの、話にはほとんど耳を傾けてもらえず、薬だけ与えられて終わりになってしまった……そんなケースもあるかもしれません。
だけど、誠心誠意向き合ってくれる精神科医が、この本の中にいます。
著者自らもうつを経験
著者の平光源さんは、自らもうつを経験し、現在は精神科医として「死にたい」と訴える多くの患者さんたちに関わってきました。
そこで伝えてきたことが、ここには詰まっています。
うつは心の骨折のようなものです。(中略)
休むことは治療であって、サボることではありません。
だから、休むことに罪悪感を感じないでください。出典:『あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから』平光源 著/サンマーク出版(p132)
“うつは心の骨折”だとして、“休むことに罪悪感を感じないでください”と伝えてもらうだけで、気持ちが軽くなっていきます。
さらに、体が「つらい、苦しい」という警報をうまく出せず、一見元気だった方が急に亡くなる事例を多く目にした経験から、
うつ状態になったあなたは素晴らしい!(中略)
症状は、「厄介ごと」ではない。
体があなたに伝えるSOSであり、素晴らしい能力。出典:『あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから』平光源 著/サンマーク出版(p178)
という捉え方を示してくれるのです。
温かな読後感が残る本
頑固な思い込みの縛りはなかなか解けないものですが、とてもわかりやすい比喩を用いて伝えてくれるので、するりと自由になれます。
「今の環境が合っていないだけ」
と言われてもなかなか心に響きませんが、これならどうでしょう。
あなたはまつたけ。
だけど、たまたま選んだ場所が、インド料理屋だっただけかもしれない。
あなたの輝く世界は必ず存在する。出典:『あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから』平光源 著/サンマーク出版(p39)
「そうか!」と視野が開ける思いがするのではないでしょうか。
多くの大切な視点を与えてくれながらも、自分の話をゆっくりていねいに聴いてもらえたような、温かな読後感が残る本です。
評者プロフィール
寺田真理子(てらだ・まりこ)
長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在し、ゲリラによる日本人学校脅迫や自宅の狙撃を経験。東京大学法学部卒業。多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演・執筆・翻訳活動。読書によってうつから回復した経験を体系化して日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。また、うつの体験を通して共感した認知症について、パーソンセンタードケアの普及に力を入れている。著書、訳書多数。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。
心と体がラクになる読書セラピー 寺田真理子 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2021年4月発売 |