セラピストとして、自分と同じHSP気質の医療・介護従事者クライアントのケアをしながら、文筆活動をされている佐々木戸桃さまより書評をお届けします!
がんばらにゃい生きかた Jam 著 笠間書院 2022年5月発売 |
書評
ゆる〜く見えて確たる芯のある『がんばらにゃい』指南書
心が疲れていると文字が読みづらくなることは往々にしてあるものです。
著者は、第一回メンタル本大賞受賞作『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。』(サンクチュアリ出版) を生み出されたJamさん。
猫のイラストが生き生きと紙の中で状態や状況を表現しているため、その姿を見るだけで、『読書』という形にとらわれず、心にフィットするものをすっと受け取れることでしょう。
本編はエピソードがQ&A式の見開き完結であり、生きていく上でどんな人も一度はぶつかるであろう事象とその対処法を教えてくださいます。
ただし、どの言葉も押し付ける香りはなく、あくまでも『提案』に近いものがほとんど。
中には(あなたはどう思う?)と、読み手が自由に感じ取り、考える余白を残している部分があるのも印象的です。
~「がんばらにゃい生きかた」より~
「幸せが憎い人もいる」@kasamashoin pic.twitter.com/RC3x8X6BWY— Jam (@jam_filter) October 12, 2022
読み始めて早々に感じたのは「なんて練り上げられた作品なのだろう」ということでした。
日頃専門書を好む自身にとって、学をやや離れてふんわりとしている本を読んでみたいな〜、と肩の力を抜いて開いたそこには、綿密な線画と多くを語らぬ言葉がありました。
淡くやさしい色の装丁に、手書きの文字。
辛さを抱える人が手にした際、堅苦しさを感じさせない最大限の気配りがされていることそのものに、自然と背筋がぴんとして、時に猫の語る言葉に爆笑したり、(これはどうしましょー!)と唸ったり…一つの哲学書として拝読した次第です。
例えば、p.034 は『自分の役回り』とあるのですが、そこに綴られたフレーズと絶妙なイラストに、「ココすき!」と、わたしは思わず付箋を貼ってしまいました。
12|自分の役回り
自作自演だから
いつでも引退
できますよ出典:『がんばらにゃい生きかた』Jam 著/笠間書院(34ページ)
練り上げられている感覚…それは1人の読み手の私感と収めることもできますが、Jamさんが語っていらっしゃる『おわりに』の部分で、確認することができました。
普段はフォントを使う部分を描き文字にしたり、ノートのらくがきに近づけるために、デジタルでもアナログに近い線が引けるペンを使ったり。
見た目はラフな感じですが、制作はいつもより大変でした。(中略)長い文章で書くより大変だなぁと思いました。
出典:『がんばらにゃい生きかた』Jam 著/笠間書院(166ページ)
「少し丁寧ならくがき」にするために、ほぼ下描きせずに描いたので、何度も何度も納得いくまで描き直しました。
出典:『がんばらにゃい生きかた』Jam 著/笠間書院(167ページ)
ゆえに、まったく難しくはない、のですね。
「いま・自分」を柱に、専門用語を使わずカテゴライズもせず『すぐらくになる』を伝える一貫性
著者がふんだんに思いやりを込めて伝えてくれているのは、「過去でも未来でもなく『いま』を生きる『自分』に役立つこと・77つ」です。
本書には、心理学書等にある専門用語はいっさい登場しません。
※現代では一般的に使われている単語がかろうじて一つ見受けられたのみ※
ですから、猫のイラストとともに楽しみつつ”眺める”だけでも、それが読み手の「いま・自分」にさり気なく寄り添う形となっています。
初めから読んでもいいし、どこを開いてもいい、という仕様は、お守りのようにベッドサイドに置いておいてもいいかもしれません。
必要に応じて読んで心がやわらいだら、本を閉じ目の前の現実へ向き合う。
ずしんと疲れたときに、どこかを開き、心をすっぴん普段着にできたら、本を閉じ目の前の日常に戻る。
どのページからも『いま・自分』を感じることのできるこの一冊のあり方は、とてもとてもすてきです。
評者プロフィール
佐々木戸桃(ささき・ともも)
東京都出身。大学時代、学内文芸誌主宰を機に、自身の詩集(既に絶版)を出版。卒業後、広告代理店に入社し、クリエイティブ部門で製薬会社、文具メーカー等の販促ツール制作に携わる。徐々に組織内での振る舞いに疲れ3年後に退職、以降ライターとして独立。実用誌・ムック・書籍の取材執筆編集業務をする内に、関わる人々から公私問わず相談を受け続けていると気づき、独自のセラピー・カウンセリングスタイルを見出して本格的に活動開始。現在は、主に自身と同じHSP気質の医療・介護従事者クライアントのケアに注力しつつ、文筆活動もゆるりと継続中。
おもな著書
『ユニクロ★デコ・リメイク』佐々木戸桃、五十嵐友美 著(雷鳥社)
『NHKサラメシ あの人が愛した昼めしの店』NHK「サラメシ」制作班 編(主婦と生活社) ※編集協力
他、実用誌・ムック約200冊に、取材、編集協力クレジットあり。
公式サイト・SNS
Twitterアカウント(@tomomo_journal)