2022選考委員MVP賞を受賞。日本読書療法学会を設立して、読書セラピーの研究と実践を続けてきた寺田真理子さまより書評をお届けします!
君か、君以外か。 君へ贈るローランドの言葉 ROLAND 著 KADOKAWA 2021年7月発売 |
書評
私がうつ病から回復する過程で、「これを変えたことで大きな変化があった」と実感したのは「言葉」でした。
自分が置かれた状況への愚痴や不満、嫌いな上司の悪口。
そんな言葉の代わりに、同じ状況でも恵まれていることを見つけ、相手のいいところに目を向け、感謝の言葉やほめ言葉を口にするように変えていきました。
すると、いただくお仕事や出逢う人が明らかに変わってきたのです。
言葉の持つ力の大きさには本当に驚きました。
この本は、そんな言葉の力を届けてくれます。
著者のRolandさんがタレントなので、自分の人生がうまくいっていないと「成功している特別な人」「自分とは違う世界の人」と捉えてしまうかもしれません。
私も、活躍する女性が顔写真入りの本を出しているのを見ては、「こんなに華々しく活躍できるのは、きっと恵まれた条件がそろっていたから」「特別なコネがあったから」などと思っていました。
だけど、実際にそういう方たちの本を読んで気づいたのは、「立つべくしてこのポジションに立っている」ということでした。
人一倍努力をしてきたからこそ、光の当たる場所に立てたのだと理解できたのです。
この本を読んで気づくのも、著者が一つひとつのことをじっくり考え、華やかな印象とは裏腹に、泥くさい努力を重ねてきたということです。
それがわかると、「自分の人生だって大きく変えていける」と思えるのではないでしょうか。
そして、本の中の言葉を自分への応援として受け取れるようになるでしょう。
人から励まされる時に、「明けない夜はない」と言われても、その言葉がもはや使い尽くされたように感じると効き目はなくなってしまいます。
でも、これならどうでしょう?
「明けない夜はないと言っている暇があれば、俺は東へ走る。東の空は明るいのだから」
出典:『君か、君以外か。 君へ贈るローランドの言葉』ROLAND 著(42ページ)
言葉がちゃんと届いて、視野を広げてくれるのではないでしょうか。
実際、心が弱ってしまうのは、社会の同調圧力の影響も大きいと思います。
「こうでなければいけない」という価値観を押しつけられ、その価値観を内面化してしまっていることも多いでしょう。
そんな価値観から自由にしてくれる言葉を届けてくれています。
名言集のような忘れられない言葉が生まれるのは、著者が言葉を、そしてそれを人に届けることを、考え抜いているから。
そんなふうにして生まれた言葉たちを、今のつらい時期から抜け出すための味方にしてほしいと思います。
評者プロフィール
メンタル本大賞2022 選考委員MVP賞
寺田真理子(てらだ・まりこ)
長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在し、ゲリラによる日本人学校脅迫や自宅の狙撃を経験。東京大学法学部卒業。多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演・執筆・翻訳活動。読書によってうつから回復した経験を体系化して日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。また、うつの体験を通して共感した認知症について、パーソンセンタードケアの普及に力を入れている。著書、訳書多数。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。
心と体がラクになる読書セラピー 寺田真理子 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2021年4月発売 |