古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします。
「自己肯定感低めの人」のための本 山根洋士 著 アスコム 2020年9月 |
書評
「自己肯定感低めの人」と呼びかけられて、ドキッとしてしまう人は多いのではないでしょうか?
自分で自分を肯定している感覚を持つのは難しいですし、そもそも「自己肯定感が高い」ってどんな状態なのかよくわからない、そんな人が大半ではないかと。
「自己肯定感が低めなことを気にしてしまっている」沢山の人に刺さる、実に秀逸なタイトルだと思います。
そんな本書の良いところは、ちょっと逆説的ですが、『自己肯定感』に深入りしていないところだと思います。
自己肯定感を「上げる」という部分に拘泥することなく、「どうして自分はこうなのか」を知って、良くてもダメでも自分に納得できる『自己納得感』に焦点をスライドすることで、読者にとっても取り組みやすく一定の成果を感じやすい内容になっています。
つまり、「自己肯定感を上げる」という先の見えない目標を、「ひとまず、理由を知って納得する」というスモールステップに切り替えているわけで、とても理にかなった方法だと思います。
本書では、自分の行動を制限し、ひいては自己肯定感を下げてしまう心のくせを「メンタルノイズ」と表現し、それを14種類に分類しています。
この分類が実に具体的でわかりやすく、理由付けにも納得感があります。
例えば、「自信がない、自分にはできないと思ってしまう」人のノイズは『ダメ出しノイズ』で、ダメ出しされたり否定されたりの積み重ねから身についてしまうもの、など、飲み込みやすい記述が続きます。
個人的にドキッとしたのは、「気を遣いすぎて疲れてしまう」人間は、「周囲が求める以上にちゃんとしすぎてしまう」「自分で自分のハードルを上げてしまう」という記述。
著者からの指示も「コンビニのレジで少し愛想を悪くしてみるくらいからはじめてみましょう」と具体的です。
自分を振り返ってみると、いつも誰にでも愛想よくふるまって当然、みたいな呪縛がすごくあるのですが、コンビニのレジの人だって、客の側にそこまでは求めてないですよね。
自分自身が接客業なのでそのあたり、よくわかります。
これらのメンタルノイズに対処するやり方も、すぐに取り組めるものばかり。
とめどなく自己否定をしてしまいそうな時、「ちゃうちゃう」と否定してくれる『インナーチャウチャウ犬』を脳内に飼っておくという対処法など、一見ばかばかしいですが、思考がどんどん先鋭化するのを防いでくれるので、なかなか良さそうです。
ちなみに、猫が好きな人は『インナーにゃんでやねん』を飼うといいそうです。
突っ込みを入れるというのは、一旦自己を相対化するための作業なんですね。
自己肯定感というよく分からない対象を、自己納得感という身近な目標に切り替えて、最終的には「自分はこれでいい」という腹おちに導いてくれる、とてもやさしい一冊だと思います。
評者プロフィール
河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。
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