2022 優秀賞受賞、2021 選考委員MVP賞に輝いた平光源さま(精神科医)より書評をお届けします!
マンガでわかる 休職サバイバル術 加藤高裕 著、ミヨシ 漫画 主婦の友社 2022年11月発売 |
書評
今回は、加藤高裕先生の『マンガでわかる 休職サバイバル術』(主婦の友社)についての書評を書かせていただきます。
加藤先生は私と同じ精神科医であり産業医でもご活躍されている先生なので、両方の視点から書かれいている、とてもバランスの取れた名著というのが第一印象でした。
一人のサラリーマンの方が、メンタルダウンして休職し復職するまでには本当に様々なみちのりとかかわる方々がいます。
そのなかで、「ゆっくり休職させてあげたい精神科主治医」と、「会社からなるべく早く復職させてほしいとプレッシャーをかけられている産業医」の意見の相違が起きることがあります。
逆に、「8割大丈夫」と判断して精神科主治医が復職可能の診断書を記載しても、「完全に治してから復帰してもらわないと困る」という会社側の要求に従って、産業医がなかなか復職を許可しない場面に遭遇することもあります。
さらに、「復職して本当に大丈夫なのか?」とう患者さんの不安や、「休職させるとそのまま退職に至ることもあるから主治医の意見なんか聞かず働かせ続けた方がいいだろう」という会社側の誤解も含めるといろんな意見が交錯し押し寄せてくるので、患者さんは本当に大海の大波に投げ出されたような不安になってしまいます。
そんな時にこの本は、精神科医としてだけでなく産業医として日々現場で起こるリアルな問題に多くのアドバイスを送ってくれます。
たとえば、「主治医と産業医の違いって?意見が異なるときはどうする?」(68ページ)で、主治医と産業医の違いについて大切な部分を表に分りやすくまとめてくれています。
また、次のように本当に大切なことがさらっと分りやすくまとめられています。
主治医の立場は、何よりも患者さん優先。勤務する会社の事情については関知しない分、「働く」という視点から見たときには、状況と合わない診断が下されることもありえます。ギャップを防ぐためにも、主治医には心身の状態だけでなく、会社での困りごと、仕事上の悩みについても共有し、総合的に状況を把握してもらうことが大切です。
出典:『マンガでわかる 休職サバイバル術』加藤高裕 著、ミヨシ 漫画/主婦の友社(70ページ)
また、メンタルヘルス対策に時間をお金をかけるのに消極的な企業側に対しても、「なぜメンタルヘルスに力を入れた方がいいのか」を「データが示す経営戦略としてのメンタルヘルス対策」として明確に提示してくれています。
うつ病の改善に伴う欠勤の減少、生産性の向上による企業の利益は、企業がうつ病対策にかけたコストを大幅に上回り、投資収益率(ROI)は2年間で302%にも上るという結果が報告されています。
出典:『マンガでわかる 休職サバイバル術』加藤高裕 著、ミヨシ 漫画/主婦の友社(14-15ページ)
企業の「うつ病対策の投資収益率(ROI)は302%にも上る」など、目からウロコの情報がいっぱいで、企業側の方々にもぜひ手に取ってみていただきたい情報が満載です。
一方で、患者さんが、「心療内科・精神科を受診するまでに不安」や「休職時の不安」にかんしては、とても愛らしいキャラクターのマンガでとても優しく分り易くより添ってくれています。
この緩急剛柔のバランスが絶妙で、加藤先生がこの本に対していかにご尽力されたかが伝わってきました。
加藤先生の本は、大休職時代という大海を安全に航海するために必須の「羅針盤」。
多くの休職している方々、そして経営者の方や総務の方々が、不安に溺れずにこのコンパスを信じて航海を乗り越えていただけると確信しています。
加藤先生、素晴らしい本を書いていただきありがとうございました。
評者プロフィール
2022 優秀賞・2021 選考委員MVP賞
平光源(たいら・こうげん)
東北地方でクリニックを開業している開業医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。
3年浪人してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約20年精神科医として心のケアに当たる。
支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。
あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから 平光源 著 サンマーク出版 2021年4月発売 |
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