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【書評】『あやうく一生懸命生きるところだった』(評者:平光源/精神科医)

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選考委員の平光源さま(精神科医)より、ノミネート作品の書評をお届けします!
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あやうく一生懸命生きるところだった
ハ・ワン 著/岡崎暢子 訳
ダイヤモンド社
2020年1月発売

書評

今回も、この本の良い所を3つ挙げてお伝えしますね。

1.本当に心が緩む本

私が著書の『あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張ってきているから』(#あな生き)で伝えたかった事は

「生きるのがしんどくなっているあなたは、一生懸命真面目なほどに生きているから辛くなる。それほどにまでに生きることを大切にしているならば、その思いが強すぎて死にたくなるよりも、もっと肩の力を抜いてただ生きて欲しい」

という思い、ただそれだけです。

出会った延べ1万人の死を口にした患者さんとの思いのやり取りの末に生まれた結晶、素晴らしい本だと思っていますが、それゆえの弱点があります。

それはその思いが強くて、「一生懸命」エネルギーが乗ってしまってることです。

「頑張らないで」といくら書いても、筆者が頑張って書いてしまうと、どうしても「頑張る」のエネルギーが乗ってしまいます。

その点この『あやうく一生懸命生きるところだった』は、本当に肩の力抜いて書いてある文章の連続です。

読んでいく事にだんだん肩の力が抜けてきて、自分のハートと一体となる心境が得られます。
あまりに力が抜けて書評もしなくていいかなと思ったぐらいなのでこれは本物(笑)。

こういう書き方があるのかととても感動させられました。
本当に「まあいいか」と心が緩む本です。

2.たった一つのテーマに絞って書かれた良書

『冬のソナタ』も『宮廷女官チャングムの誓い』もスルーした私ですが、実は昨年『愛の不時着』にはまってしまいました。

そのなかで、日本のドラマと韓国のドラマが何が違うのか考えていましたが、1つ言えることは、テーマがとてもシンプルなことだと思います。

日本のドラマは、気持ちが読みあえる民族のさがか、どうしても文脈で読ませてあえて説明しなかったり、ひねりや衝撃のどんでん返しなど、どうしても構造的に複雑になってしまいます。

そうなると、1話でも見逃すとドラマの話についていけなくなり、見続けることから脱落してしまいます。

ところが、韓国のドラマはその真逆。

例えば、「愛の不時着」だったら、「純愛」ただそれだけです。
それを1話約70分、15話にわたってじっくり描きます。

主人公同士がくっつきそうで、交通事故みたいな想定内のハラハラドキドキ(笑)はありますが、最後は結ばれるのでゆったりと安心してその世界、その主人公に没入してみることが出来ます。

この本のテーマも本当にシンプル。

例えば、p79の「そこまで深刻に生きるものじゃない」では、人生はなぞなぞみたいなものだとして、

そうだ。本来、楽しむことが目的のなぞなぞに、僕らはあまりにも死に物狂いで挑んでいるのではないか?
答えを探すことだけに集中し、問題を解く楽しさを忘れてはいないだろうか?

なぞなぞは、必ずしも正解しなくていい。間違えても楽しいのだ。
しかも、このなぞなぞはどうせ正解なんかない。

出典:『あやうく一生懸命生きるところだった』ハ・ワン 著、岡崎暢子 訳/ダイヤモンド社(p80)

など、「そんなに真面目に生きなくても大丈夫」というたった一つの優しい思いが、287ページにわたって、面白おかしく、そして切なく描かれています。

安心してその世界に入り込んで、このエッセイを味わってください。

3.等身大のありのままの筆者=私が愛おしくなる名著

この本には2浪して希望しない大学に入ったが、執着が強すぎて大学が諦めきれず中退したこと。
また3浪してやっと美大に入ったけれど、結局いい会社に入れずに副業でイラストを描いていたこと。
そのうちに絵を描くこともいやになり、嫌になった勢いで社長の辞表を見せたら、無職になってしまったことなど、著者が通ってきた失敗の道が正直に描かれています。

その経験のなかで得られた人生の学びがたくさん詰まった本なのですが、p112の「自分だけの人生は失敗の上に成り立つ」のなかでは、

失敗してもいい。失敗したときは後悔すればいいだけだ。
きっと、他人の言葉を信じて群れを成した人々も、後悔するのは同じだから。違うかな?

失敗を恐れずに、孤独の失敗家になろう。

出典:『あやうく一生懸命生きるところだった』ハ・ワン 著、岡崎暢子 訳/ダイヤモンド社(p115)

と「辞めて良かった」、「もし失敗しても大丈夫」という視点が中心にはなってはいるのですが、どこか愚痴のようにも、後悔のようにも、なにか自分に言い聞かせるようにも書き綴られています。

偉い先生が同じようなことをいっても、「あんたに何が分かる」と反発したくなりますが、このありのままの筆者の裸の言葉を読んでいくと、たまらなく著者が愛おしくなります。
それは、筆者の中に自分を見た証拠。

本当は、あなたはあなたが大好きで愛おしいと思っていることに、ふと気付かされる名著です。

まとめ

この本を一言でまとめると、心と体がゆるまり自分が愛おしくなる本です。

頑張りすぎて人生に疲れた方や、自分の愛し方がわからない方、肩の力の抜き方が分からない方にお勧めです。

ハ・ワンさん、岡崎暢子さん、素晴らしい本をありがとうございました。
今回は気合いをいれずに撮ってみたニャー

出典:平光源さまFacebook投稿(2021年7月12日)

評者プロフィール

2022 優秀賞・2021 選考委員MVP賞
平光源(たいら・こうげん)

東北地方でクリニックを開業している開業医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。
3年浪人してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約20年精神科医として心のケアに当たる。
支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。

メンタル本大賞2022 ノミネート作品

あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから
平光源 著
サンマーク出版
2021年4月発売

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