【メンタル本大賞®2023】
ノミネート作品 審査コメント
2023 ノミネート作品
評価結果・作品別コメント
1位 | 30 pt | あなたの「しんどい」をほぐす本 Poche 著/もくもくちゃん イラスト KADOKAWA |
2位 | 20 pt | 「自分の感情」の整えかた・切り替えかた 高井祐子 著 大和出版 |
3位 | 10 pt | 「頑張る」をやめてみる 根本裕幸 著 リベラル社 |
30pt:『あなたの「しんどい」をほぐす本』
あなたの「しんどい」をほぐす本 Poche 著/もくもくちゃん イラスト KADOKAWA 2022年12月発売 |
評価ポイント
- 表紙の紙にまで工夫を凝らした造本の見事さ
- 専門的な知見を盛り込みつつもそれを感じさせない暖かな文体
- かわいらしくて物語も感じさせるイラスト
評価理由
本づくりは個人ではなくチームで取り組む作業だと思うのですが、そのチームワークの見事さを一番感じさせてくれる一冊でした。
しかも、読者の「しんどい」気持ちをほぐすという目標がはっきりしていてブレない。
著者だけが、イラストレーターだけが、編集者だけがよい仕事をしたとしても、個人技だけではこれだけのものは作り出せないのではないでしょうか?
表紙のもこもこした紙がもくもくちゃんさんの描線を活かし、そのやわらかい描線で書かれたイラストがPocheさんのやさしい文体を活かしている。
その相乗効果が本当に見事だと思います。
とにかく、やさしく、かわいらしく、やわらかい一冊ですが、Pocheさんの言葉には、一本筋の通った「頼もしさ」も感じます。
20pt:『「自分の感情」の整えかた・切り替えかた』
「自分の感情」の整えかた・切り替えかた 高井祐子 著 大和出版 2022年5月発売 |
評価ポイント
- 著者に臨床心理士と公認心理師の資格があり、専門的な記述に信頼を抱ける
- 見ているだけで和んでしまう可愛らしい挿絵
- 「仕事」だけではなく「家事」にもフォーカスを当てた珍しいメンタル本
評価理由
著者が、臨床心理士、公認心理師の資格をおもちということで、読んでいて「これはどうなのだろう?」と妥当性を疑いたくなる記述がほとんどなく、提示されたワークにも安心して取り組めるのが、まず何よりの美点だと思います。
また、この本に特徴的なのは「生活臨床」という考え方で、メンタルが弱るとまず疎かになりがちな、生活習慣を整えることで感情も整えていくというのは、いままでありそうでなかった視点だと思いました。
仕事のこなし方、乗り切り方を紹介したメンタル本は多いですが、「家事」にここまでフォーカスしたメンタル本は、なかなか思い当たりません。
そういう意味でも貴重な本ですし、「女性向け」という枠に入れず、広く読まれるべき本であると思います。
キャラクターの可愛らしさも心に残りました。
社会に向けて見せている顔である「私」と、小さな女の子「私の中のワタシちゃん」、そしてふかふかで安心感をくれる「クマちゃん」というキャラクター設定は、心理学の理論をわかりやすく表現していて秀逸です。
10pt:『「頑張る」をやめてみる』
「頑張る」をやめてみる 根本裕幸 著 リベラル社 2022年5月発売 |
評価ポイント
- 文庫版という制約のあるメディアだが、制約を感じさせない読みやすさ
- メンタル不調を引き起こす様々な要因を、「抱え込み」という言葉でわかりやすく解説
- 登場するワークも取り組みやすいものばかり
評価理由
なんといっても、「抱え込み症候群」という言葉選びが良いと思いました。
メンタル不調を引き起こす要因は、色々と入り組んでいると思うのですが、「抱え込み」という言葉で説明されると、何となく自分でも対処できそうな、前向きな気持ちになります。
紹介されている「ワーク」も、あまり頑張らなくても取り組めるものばかりですし、「なぜこのワークに取り組むのか?」という理由づけも明快に説明されており、わかりやすいです。
また、「抱え込み」のマイナス面だけでなく、プラスの面もちゃんと解説されているのも良いと思います。
全体に、とてもバランスが取れていますし、サイズも文庫版かつお値段も1000円以下と良心的なので、初めて手にする「メンタル本」におすすめの一冊かと。
総評
メンタル本大賞の選考委員を務めるのは今年で2回目ですが、昨年のメンタル本大賞と比べても、各書籍の個性が際立っている印象を受けました。
起業のノウハウがわかるビジネス本に近いものや、テレビでおなじみのタレントさんが書いた書籍、コミックが収録された一冊、絵本のように読めるもの、気軽に持ち運べる文庫本サイズのもの……などなど、カラフルで個性的な書籍が集まっており、見ていて飽きませんでした。
一口で「メンタル本」といっても、切り口次第でこんなにも多様なものができるのか、と驚かされます。
その一方で、弱っている状態の人にとってはこの「多様さ」「切り口の多彩さ」が、「選ぶことの難しさ」にもつながってしまう可能性はあり、迷った時の羅針盤として「メンタル本大賞」が果たすべき役割も大きくなっているかもしれません。
私に心理学や精神医学の専門知識はありませんので、「読者代表」「当事者代表」としての立ち位置から評価することが大半ですが、今年はそれに加えて「本好き代表」な自分が顔を出す場面も多くなりました。
本当に読者のことを考えて作られている本は、紙選びから本文に使う色まで、とても繊細に考えて作りこまれています。
そういった部分の工夫は、なかなか目につきにくく、むしろ目につきにくいほうが良いとされるのですが、「いい本」の存在を支える大事な要素です。
今回の選考や書評では、そういった「本づくり」の工夫にもなるべく目を配って、盛大な拍手を送るよう努めました。
しんどい、生きづらいと感じている人たちに対して、「本」ができることには限界があります。
本には薬みたいな目覚ましい「効き目」はないし、どれだけ言葉を尽くして一冊の本にまとめたとしても、身近な人の温かい一言のほうが当事者の心に届くのは当然のことです。
そんな限界と向き合いながら、生きづらさを抱える人たちに向けて本を作り続けている皆さんには、心から敬意を抱きますし、自分自身、書店員という立ち位置でできることを考え続けていきたいと思います。
来年も、よい「メンタル本」に出会えますように。
選考委員プロフィール
河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。
公式サイト・SNS
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百年の二度寝 Xアカウント(@mukadeyabooks)