『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』(サンクチュアリ出版)の著者、F太(えふた)さんと小鳥遊(たかなし)さんのお二人にお話をうかがいました。
要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑 F太、小鳥遊(共著) サンクチュアリ出版 2020年4月発売 |
著者インタビュー PART3
タスク管理との出会い
― お二人はタスク管理にどのようなきっかけで出会ったのですか?
小:
タスク管理で自分の特徴をカバーできるようになった、という体験を知って欲しいと思って、5~6年前から細々とTwitterやブログで発信し始めたんです。
繋がりが増えていくうちに、『TaskChute(タスクシュート)』というタスク管理の考え方やツールを考案した大橋悦夫さんという方にお会いしまして。
タスク管理では有名な方で、最初にこの大橋さんが主宰する「タスクシュートとマインドフルネス」というイベントに参加したんです。
タスク管理で得られる境地は、マインドフルネスで得られる「あるがままを肯定する」に似ているんじゃないか、といった内容だったんですけど。
非常にマニアックなイベントだったんですが、参加者の5名ほどの中にF太さんがいらっしゃって。
「ひらめきメモのF太さんだ!」と気づいて、もし一緒に何かできたら自分のやりたいことに広がりが出て、面白いんじゃないかなと思いまして。
イベント帰りの電車の中でF太さんに「こういうのやっているんです!」って声をかけたんです。
そうしたら、F太さんからも「一緒にやってみませんか?」と言って頂いて。
タスク管理ツール「TaskChute」の画面イメージ
F:
僕はそのイベントで小鳥遊さんが自己紹介をなさっている様子を見て、「なんて聞き取りやすくて整然としたお話の仕方なんだろう」と感心したんです。
きっと仕事が出来る方なんだろうなって、最初は思ったんですよ。
でも帰り道で小鳥遊さんと色々とお話していく中で、「実は発達障害という診断を受けたことがあって」と打ち明けられて、すごく衝撃を受けたんです。
身近にそういう方がいなかったので、発達障害という診断を受けても、こんなに上手にコミュニケーションが取れて、仕事が出来る方もいるんだと驚いて。
同時にそのやり方についての興味がわいていきました。
同じような特徴をお持ちで悩んでいる方が、小鳥遊さんのように人前で上手に話せるようになったり、「タスク管理が大好きすぎて仕事に行ってます!」という感じで楽しく仕事ができるようになったら、これはすごくいいことなんじゃないかと思って。
それで、小鳥遊さんと一緒にイベントを行うようになりました。
― 私も自分で「この要領の悪さはあきらめるしかないんじゃないか」と思っていましたが(笑) この本を読んで「あ、頭の中でごちゃごちゃになってしまうなら書き出せばいいのか」と気づいて。とても安心できるようになりました!
F:
そうなんですよ。
「まず安心しよう。そのために書こう」というタスク管理のコンセプトが僕たちにフィットしていたんだと思います。
好きな本のジャンル
― 話は変わりますが、普段はどのような本を読まれていますか?
F:
昔から心理学や精神分析の本が好きで読んでいます。
若い頃は異性にモテたいとか、自分を何とかしたいというような動機があって。
でも、大学生なら大学生らしく、出会いのありそうな場所に行けばいいのに、「異性とコミュニケーションをとる勇気が出ない自分は心に問題を抱えているんじゃないか」という風に考えるようになって。
精神分析とか自分の内面を深掘りするような方向に向かったんですね。
その頃は特に、心理学や精神分析の本ばかり読んでいましたね。
最近は抽象的な本、例えば哲学書を好んで読んでいます。
「人類はしょうもないことで悩んでいるんだなと思えると自分の悩みがちっぽけに感じる」
「こんなに頭のいい人がこれだけ考えても結論らしい結論が出ていない」
「自分の悩みも何かしら人類のために役に立つんじゃないか」
こんなことを考えていると、自分が悩んでいるプロセスを肯定できたり、自己肯定につながっている気がします。
難しい本を読んでいると、いい時間の使い方をしている気分になるので、僕にとっては哲学書とか、難しい本がメンタル本なんですよ。
寝る前に読むと寝落ちできますし(笑)
― 同感です(笑) 小鳥遊さんはいかがですか?
小:
実は私、本はそんなに読まなくて。
でもタスク管理を広めるにあたって、表象的な技術だけじゃないもの、根源的なものをよく知っておいた方がより深みが出て、説得力も増すんじゃないかと思いまして。
そこで私も哲学書を読み始めることにしました。
「どんな本がいいですか?」とTwitterでつぶやいたら、タスク管理に造詣が深くてご自身でも本を書いている倉下忠憲さんが「『ソクラテスの弁明』(プラトン 著)から行きましょうか」と言うんです。
それを読んだ後は、『方法序説』(デカルト 著)に行って、その後『アランの幸福論』(アラン 著)に行っているんですけど、分かるところと分からないところがあって。
私、40代半ば近くなのに「まるで中高生か」と少し恥ずかしいんですけど(笑)
― す、すごい!
小:
特にデカルトの『方法序説』はすごく印象深くて、私にとっては最近のヒットですね。
この本には、タスク管理、そのままのことが書かれているんです。
全部で6章くらいあるんですけど、第2章くらいに「細かく分けて分析せよ」みたいなことが書かれていて、「あ、これは手順に分けるタスク管理と同じだな」と思ったり。
バイアスがかかっている気もしますが、何でもタスク管理に結び付けて考えてしまうので、読書は今の活動の原動力になっていると思いますね。
ソクラテスの弁明 クリトン プラトン 著、久保勉 訳 岩波書店 |
方法序説 デカルト 著、谷川多佳子 訳 岩波書店 |
アランの幸福論 アラン 著、齋藤慎子 訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン |
F太さんのプライベート
― いやぁ、お二人とも好きな本のジャンルが哲学とは……
F:
正直言うと、一番読んでいるのは漫画なんですけど(笑)
ベタなんですけど、今流行っている本を読むのが僕の流行りでして。
Twitterが好きなので、Twitter上で盛り上がっている作品を読むと一緒に参加できるじゃないですか。
時代の雰囲気と一体になってコンテンツを消費することって、そのタイミングでしかできないことなので、意識的に流行っているものを読むようにはしています。
時代に合わせていくことは、余裕がないとできないなとつくづく思います。
― ちなみに仕事以外の時間はどんな風に過ごされていますか?
F:
そうですね……。
この質問に答えるのは非常に難しいんですけど。
「好きなことを仕事にしよう」みたいな価値観で生きてきたところがあって、「夢中になれるものがあるなら何でも仕事にしたい」と思う質なんです。
例えゲームであっても、好きなら実況して収益化してしまうことも可能なので。
何でも仕事に結びつけて考えがちですね。
だから「仕事以外の時間」に対してあまりピンとこないんです。
最近は仕事に結びつかないことをする方が大事なんじゃないかと思い始めまして。
そういう時間を意図的に持つこと、仕事をしないという時間を意識的に過ごすということをやってみてるんですけど、結局何もすることがなくて(笑)
「仕事につながったらダメ」
「価値を感じることをやっちゃダメ」
「めちゃくちゃ退屈なことをする」
こんなルールを決めてスタートするんですけど、自分は遊ぶのが下手なんだなと気づくんです。
何度もクリアしている昔のゲームを引っ張り出して、例えば昔の『ファイナルファンタジー』なんかをやり出したりして。
「クリアしたものをまたやるのは意味ないよな」
「こういう意味がないところに癒しを感じるんだろうな」
なんて考えたりして。
でもそのうちに「そう言えば、昔のゲームをやりこむ動画ってYouTubeで何万回も再生されてるんだよな」とつい価値のある活動に結び付けようとしてしまうんですよ。
「いかん!いかん!」
なんて、気づいて慌てたりして(笑)
時間の過ごし方を意図的に変えて、遊ぶことに上手くなりたい……。
そんなことに今は夢中になっている感じです。
遊ぶのって本当に難しいなと思います。
小鳥遊さんのプライベート
― 仕事以外の時間はどんな風に過ごされていますか?
小:
私の場合は、タスク管理を広めることが趣味みたいなもので、やってて楽しいんです。
時間があればタスク管理のことを考えてしまうところがあるんですが、あえて言うなら、音楽が一番の趣味ですね。
クラリネットを30年くらい演奏していたので、仕事以外に一番時間を費やしたのはクラシック音楽演奏・鑑賞です。
モーツァルトの『レクイエム』という作品の中に「怒りの日」という曲がありまして。
割とカッコいい曲なんですが、オーケストラや指揮者によって違ういろんな演奏を1つのフォルダに入れて、ずっと「怒りの日」を聞き続けるというのがマイブームでして(笑)
でもこの曲を「連続再生してます」と言うとかなり危ない人に思われちゃうので、あまり言えないんですけど。
クラシックでは暗い曲が好きなんですよ。
先ほどルノアール(喫茶店)での話をしましたが、その時に聞いていた曲は、ブラームスの『弦楽六重奏曲第1番 第2楽章』という曲なんです。
ぜひ一度聞いて頂きたいんですが、ものすごく感傷的で暗い曲なんです。
「そりゃ泣くわ」という感じの曲なんですよ。
クラシック鑑賞は、もう話し始めると止まらなくなるくらいの趣味ですね。
クラリネット演奏に臨む小鳥遊さん
PART4 につづく
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最終回では、F太さん、小鳥遊さんから頂いた、生きづらいと感じている方へのメッセージをお届けします!