選考委員の平光源さま(精神科医)より、ノミネート作品の書評をお届けします!
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弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉 鈴木颯人 著 三五館シンシャ 2019年3月発売 |
書評
月曜日の書評シリーズ、今回は、鈴木颯人先生の『弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉』(三五館シンシャ)です。
今回も、この本の素晴らしい内容について、3つに分けて解説しますね。
1.モデリング対象を見つけるのにふさわしい本
私もそうですが、人が何か努力したり頑張ったりするときに、単なる言葉だけを励みにしていると挫折してしまうことが少なくありません。
でも「この人のようになりたい」、「この人が言うのだからやってみよう」と本当に心から好きな人真似をしながら、その人の言葉を一生懸命実行していくのは、案外難しくありません。
なぜなら、本書のP84にあるように
努力は夢中に勝てない(為末大)
出典:『弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉』鈴木颯人 著、三五館シンシャ(p84)
「好きこそものの上手なれ」で夢中という「ゾーンに入る」ことで、続けることが苦ではなくなるからです。
そんな、夢中になれる自分の理想とする人をモデリング対象といいます。
この本はたくさんの一流アスリートが自分の経験から紡ぎ出した素敵な言葉がたくさん詰まっています。
その中にはあなたのモデリング対象になり得る選手が、きっといるはず。
例えば、
僕は完成した自分を見せたいのではなくて、成長する自分を見せたい
出典:『弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉』鈴木颯人 著、三五館シンシャ(p120 宇野昌磨さんの言葉)
目標のレベルが高くなれば、野球のレベルは高くなる。僕はそれができる存在になりたい(大谷翔平)
出典:『弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉』鈴木颯人 著、三五館シンシャ(p122)
など、本書は本当にアスリートの名言の宝箱。
「自分の大好きな選手が、こんなことを言っていたから頑張ってみよう」と自分に必要な言葉を選んでみるのも良し。
逆に、素晴らしい言葉に触れて、その人をモデリング対象にしていくものまた良しです。
2.マイナス感情こそ大切なことに気が付く衝撃の本
多くのメンタル本は「不安」を中心としたマイナスな感情をどうやって解消するかと言う方向に傾きがちです。
しかし、一流アスリートたちはそのマイナスを逆に大切に使っていることがよくわかります。
例えば室伏広治選手のこの言葉。
弱い負荷しか体験したことのない人間は、強い負荷に耐えられない。「負」に対する免疫を作るためにはどん底を恐れてはいけない。いやむしろどん底をともにすべきだ(室伏広治)
出典:『弱いメンタルに劇的に効く アスリートの言葉』鈴木颯人 著、三五館シンシャ(p64)
自分の欠点にあえて向き合って、その欠点とともにあり続け、それを解消することで自分の実力をアップしたり、目標を達成するのにうまくマイナスを利用しています。
名アスリートこそ、よりボジティブ思考に集中していくのだと思っていた私にはまさに目から鱗の内容でした。
いつも不安で、どんなメンタルを読んでも不安が解消されない方は、ひょっとしたらアスリート気質なのかも。
この本を読んで「自分の理想とする自分」に向かってきちんと不安に向き合ってそれが活用出来たら、何かが変わるかもしれません。
3.著書の思いが詰まった優しい本
この本は巷にありがちな、だだのアスリートの言葉だけを集めた名言集ではありません。
著者の流れるように読みやすい文章の中に、アスリートの名言がちりばめられているのですが、目線が温かく、まるで鈴木先生のコーチングを受けているかのようです。
その理由は、鈴木先生がだれよりも挫折を経験しているからだと思います。
中学までは野球部のエースとして高校にスポーツ推薦で入学するも結果を出せず挫折。
就職後もリストラにあって失業、そしてうつ病を発症されるなど、大変な経験をされて今のスポーツメンタルコーチになられました。
そこには、自らが逆境を乗り越えてきた他者に対する
「大丈夫だよ、乗り越えられる。だからもう少しだけ頑張ろう」
という愛に満ち溢れています。
それは、人生という名の競技の途中でさまよう私たちに宛てた名コーチからのラブレター。
その理由は、本書のあとがきに書いてあるので、是非ご自身で読んでいただきたいと思います。
まとめ
この本を一言でまとめると、
「マイナスの大切さに気がつける、アスリートの名言が詰まった名コーチのラブレター」
です。
何かにくじけそうになっている方や、何かに迷って抜け出せなくなっている方、他のメンタル本でも不安が消えないと苦しんでいる方すべてにおすすめの本です。
鈴木先生、素晴らしい本をありがとうございます。
出典:平光源さまFacebook投稿(2021年7月26日)
評者プロフィール
2022 優秀賞・2021 選考委員MVP賞
平光源(たいら・こうげん)
東北地方でクリニックを開業している開業医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。
3年浪人してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約20年精神科医として心のケアに当たる。
支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。
あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから 平光源 著 サンマーク出版 2021年4月発売 |
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