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【書評】『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』(評者:平光源/精神科医)

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メンタル本大賞2021【選考委員MVP賞】に輝いた平光源さま(精神科医)より書評をお届けします!

メンタル本大賞®2022 ノミネート作品

この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ
井上智介 著
WAVE出版
2021年9月発売

書評

平光源の書評シリーズ
今回は井上智介先生の『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』(WAVE出版)です。

今回もこの本の素晴らしいところを、3つに分けて説明させていただきますね。

1.自分の限界の見極めをわかりやすくサポートしてくれる本。

やる気と根性があることが当たり前と思われる日本の職場。
その中で「私はもう限界です」と声を上げるのは不可能に近い話です。

そのような同調圧力の中では、次第に感覚が麻痺してきて、限界を超えて働き続け、うつ病にまで追い込まれ働けなくなることもしばしばです。

そんな時の対処法がこの本にはたくさん書いてあります。

例えば「仕事をうまく片づけられず時間ばかりがすぎていく」(p42)方へのアドバイスとしては

忙しくて時間の感覚がなくなってしまうという人はよくいますが、理由のひとつは、疲労が溜まっているせいで頭が働いていないこと。
この場合は、とにかく「頭を休めること」が肝心です。

出典:『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』井上智介 著/WAVE出版(p42)

とにかく「頭を休めること」が肝心と休みをすすめ、「5日間休みをとる」など、具体的な休み方の方法を伝えてくれます。

自分の限界の見極めをわかりやすく教えてくれる本です。

2.一つ一つの心の症状に向き合って寄り添ってくれる優しい本。

先ほどもご紹介しましたが、井上先生のアドバイスは一つ一つが具体的。
それは心の症状だけではなく体の症状などアドバイスが広範囲にわたります。

例えば「耳鳴りがする・耳が聞こえにくくなった」(p78)方へのアドバイスとして、

「耳と脳が『働きすぎだからこれ以上、情報をつめ込んじゃいけないよ』とSOSを出しているんです」

と優しく患者さんの不安を解消してくれます。

難聴まで至らなくとも、耳鳴りが強くなったり、めまいが起きやすくなったりするケースは数多くあります。
精神的なダメージが蓄積しているときは、体の感覚が過敏になりやすいのです。

そのような症状のある人は耳鼻科の受診と並行して、心療内科や精神科で治療を受けることが望ましいでしょう。

そうした患者さんに出会うと私は「耳と脳が『働きすぎだからこれ以上、情報をつめ込んじゃいけないよ』とSOSを出しているんです」と伝えています。

出典:『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』井上智介 著/WAVE出版(p79)

3.会社を辞めると言う難しい決断を冷静にそして覚悟を持って応援してくれる本。

この本の最大の特色。
それは、「ちゃんと会社を辞めることを後押ししてくれる本」だということです。

私も本を書くときにいろいろ考えますが、「私の本に影響されて患者さんが仕事を辞めてしまったらどうしよう」と内容を変えてマイルドに書いたりすることもあります。

でもこの本は「本当にがんばりきれなくなったらちゃんと仕事を辞めるべき」と明確に言い切り、また具体的な辞め方のアドバイスまで書いてくれています。

これは井上先生の、「仕事ではなくあなたの心と体を本当に大切にしてほしい」という愛から出た覚悟の言葉。

その覚悟、本当に尊敬します。

まとめ

まとめです。
この本は職場での生きづらさに対して寄り添いサポートしてくれながら、仕事を辞めることも後押ししてくれる筆者の愛と覚悟がたくさん詰まった本です。

題名通り「この会社ムリ」と思った方はぜひ読んでみて下さい。

井上先生素晴らしい本ありがとうございました。

評者プロフィール

2022 優秀賞・2021 選考委員MVP賞
平光源(たいら・こうげん)

東北地方でクリニックを開業している開業医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。
3年浪人してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約20年精神科医として心のケアに当たる。
支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。

メンタル本大賞2022 ノミネート作品

あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから
平光源 著
サンマーク出版
2021年4月発売

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