日本読書療法学会を設立して、読書セラピーの研究と実践を続けてきた寺田真理子さまより書評をお届けします!
発達障害サバイバルガイド 借金玉 著 ダイヤモンド社 2020年7月発売 |
書評
工事現場の標識を思わせる派手なカバーは、自分では手に取ることはなかったでしょう。
「著者が自分のやり方を押しつけるタイプのマニュアル本なのでは……!?」
と警戒してしまったのです。
本書は、たしかにマニュアル本でした。
それも、解像度の高い、優れたマニュアル本です。
片づけられない、どんな服を着ればいいのかわからないといった生活上の困り事に対して、何をどうすればいいのか、考え方から具体的なツールまで一つひとつ懇切丁寧に教えてくれるのです。
だけどその根底にあるのは、マニュアルとは真逆の「あなたがあなたである」ことを尊重する精神でした。
あなたはプライベートな領域において、あなたであり続けるべきです。生きる力の源泉というのは「社会に上手に適応すること」ではありません。それは手段であって目的ではないのです。
出典:『発達障害サバイバルガイド』借金玉 著/ダイヤモンド社(317ページ)
この精神が根底にあり、読者に徹底して寄り添ってくれているので、安心感を持って読み進めることができました。
著者自身も、読者を変えることを望んでいるわけではないのです。
僕のライフハックのテーマは「自分を変える」のではなく、「やり方を変える」「環境を変える」「道具を変える」など、パーソナリティの外部にあるものを工夫することで変化を起こすことをモットーにしています。
出典:『発達障害サバイバルガイド』借金玉 著/ダイヤモンド社(314ページ)
これらの工夫は、発達障害がある方だけでなく、生きづらさを抱えた方たちの助けになってくれますし、著者の考え方は気づきと励ましを与えてくれます。
どうか、「自分は怠けている」という結論に安住しないでください。できないことはできない、ないものはない。いつだってそこから始めていくしかないのです。(91ページ)
状況が厳しくなると、人はつい自罰的になってしまいます。しかし、あなたがあなたの日常を苦痛に満ちたものにしたところで、誰も救われたりはしません。(131ページ)
不安は、未来への意志がそこにあることを示すものです。不安であることは正しいのです。「死ねばいいや」で勢いよく忘れる精神的ヤク中より、不安を背負って生きているあなたがずっと前向きなのです。(309ページ)
出典:『発達障害サバイバルガイド』借金玉 著/ダイヤモンド社
意識の高さではなく、現状を何とかしていこうという「意識の低さ」を謳う背後にある、著者としての意識の高さと読者への愛情に感銘を受け、個人的な読書記録にも、感化された言葉の数々を書き写させていただきました(画像参照)。
評者プロフィール
寺田真理子(てらだ・まりこ)
長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在し、ゲリラによる日本人学校脅迫や自宅の狙撃を経験。東京大学法学部卒業。多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演・執筆・翻訳活動。読書によってうつから回復した経験を体系化して日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。また、うつの体験を通して共感した認知症について、パーソンセンタードケアの普及に力を入れている。著書、訳書多数。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。
心と体がラクになる読書セラピー 寺田真理子 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2021年4月発売 |