古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」（東京都練馬区）の店主 河合南さまより書評をお届けします！
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発達障害サバイバルガイド 借金玉 著 ダイヤモンド社 2020年7月発売 |
書評
生まれ持った脳の「特性」によって、生きづらさを抱えている「発達障碍」の当事者が、マジョリティ（定型発達）が最も効率よく動けるようにチューニングされたこの社会で生き抜くための、サバイバル術が詰まった一冊です。
特徴的なのは、精神論や励ましの言葉を極力排し、「方法」を提示するのに徹していること。
「家計簿をつけるのは特性上難しいから、クレジットカードの明細を家計簿代わりにする」「起きたらすぐにスーッとする目薬をさして気持ちを切り替える」
といった具体的な対処法が、なぜそうすると合理的なのかの解説とともにひたすら並びます。
読み進めながら連想したのは、小学校の時に買ってもらった『冒険図鑑』（さとうち藍 文、松岡達英 絵／福音館書店）という本のこと。
野外生活を送るうえで必要な、火のおこし方、怪我した時の応急処置、天気観測など、屋外で「サバイバル」する上で必要な情報が盛りだくさんの一冊なのですが、とにかく具体的な方法を詳述している点で、この２冊の「サバイバルガイド」は似通っています。
もっとも、著者の借金玉さんが言うところの「サバイバル」とは、極限の状況下でストイックに生き延びることではありません。
「よりラクに、より快適に、より優雅に生きられる環境を自ら作り上げていくこと」
だと提示されています。
それ故、うつなどの要因で自罰的な気持ちになっている時には、「そんな贅沢をしていいのか？」「そんなに楽をして許されるのか？」と不安に思ってしまう場合もありそう。
しかし、そんな「自分いじめ」な感情を極力抑えることは、精神疾患を乗り切るためにも必要なことです。
無理をしてまで借金玉さんの方法論をなぞることはありませんが、自分が共感できること、自分にもできそうなことから少しずつ取り入れてみる、そんな自分を許してあげることで、みなさんが少しでも気持ちのいい毎日をすごすことが出来れば、それでいいんじゃないかな、と思います。
この本を読んで考えさせられたのは、少しマジョリティと違うところがある人たち、マジョリティの「当たり前」が難しい人たちにとって、この社会は「サバイバルスキル」がないと生き抜けないくらい、しんどいものだという事実です。
発達障碍と定型発達の間にはっきりと分別できる違いはなく、グラデーションになっていると言われます。
つまり、多かれ少なかれ誰にでも発達障碍の要素はある。
発達障碍当事者の存在を考えに入れず、誰もが定型発達であることを前提として設計された社会は、「マジョリティ」だとみなされている人にとっても、ちょっとしんどい社会なのではないでしょうか？
社会的な風潮をすぐに変えることは難しいですが、ひとりひとりが「よりラクに、より快適に、より優雅に生きられる環境を自ら作り上げていく」ことが積み重なって、この社会が多様性を尊重する方向に変わっていけばよいな、と思います。
評者プロフィール
河合南（かわい・みなみ）
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。
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