【書評】『君か、君以外か。君へ贈るローランドの言葉』（評者：平光源／精神科医）

2022 優秀賞受賞、2021 選考委員MVP賞に輝いた平光源さま（精神科医）より書評をお届けします！

「メンタル本大賞®2023」エントリー作品

君か、君以外か。君へ贈るローランドの言葉
ROLAND 著
KADOKAWA
2021年7月発売

書評

今回は、ローランドさんの『君か、君以外か。君へ贈るローランドの言葉』についての書評を書かせていただきます。

私が高校三年生＋三浪の約4年、約1460日の辛くて苦しい受験勉強を続けてこられた理由の一つに、代々木ゼミナールの西谷昇二先生の存在がありました。

なかなか成績が上がらず、月曜からずっと受験勉強が続いて心がクタクタになって弱ってききた金曜日の5時限目に西谷先生の授業は設定されていました。
その波乱万丈の人生に裏打ちされた多くの言葉は、時に私を励まし、時に私を鼓舞してくれました。

三浪のある時、西谷先生が代々木ゼミナール仙台校に講演会に来てくれたことがありました。
一番大きい300人収容の教室は超満員。
講演会後のサイン会はその日の23時まで続き、握手してもらった時の興奮は今でも覚えています。

「いつか自分も先生のように、言葉で暗闇に閉ざされた心に光を灯したい」

そう強く願って西谷先生に憧れて夏期講習も冬期講習もずっと追っかけ続けた4年間。
この時間がなかったら今の医師としての私は存在していなかったと思います。

ローランドさんのご著書を読ませていただいて、当時の西谷先生への熱い思いと同じ思いがこみ上げてきました。
それはきっと、ローランドさんの書かれた魂の言葉たちが、私の心に炎を灯してくれたからだと思います。

例えば、コンプレックスに関して

ありのままの自分を好きになろうなんて、綺麗事だ。
本当に頑張って頑張って頑張った先に、大好きな自分が待っている。

出典：『君か、君以外か。君へ贈るローランドの言葉』ROLAND 著／KADOKAWA（52ページ）

など多くのメンタル本に書いてあることと真逆なことが書いてあります。

しかし、それは読者を否定しているのではなく、

君がもしコンプレックスを感じているのだとしたら、それは自分に対しての理想が高いというなによりの証拠だ。上を目指している証だ。現状に満足していない証だ。
なにも恥ずかしがることはない。むしろ誇るべきことだ。

出典：『君か、君以外か。君へ贈るローランドの言葉』ROLAND 著／KADOKAWA（53ページ）

と読者を誰よりも信じ肯定しているからこその優しい思いからの発言です。

他にも、自分が才能がなかったために、後輩にも追い越され、悩んで嫉妬したから努力できたことを正直に読者に伝え、

今君が、なかなか結果が出せず、そんな才能のない自分を後ろめたく感じているのなら、才能がないことも、一個の才能だと知ってほしい。

さあ、努力で才能をぶっ倒そう。
そして、数年後にこう言ってやるのさ。

ああ！私は才能がなくて、なんてラッキーだったんだろう！
とね！

出典：『君か、君以外か。君へ贈るローランドの言葉』ROLAND 著／KADOKAWA（21ページ）

と力強く勇気づけてもくれます。

誤解されてしまうことも多いと思うのであえて書いておきたいのですが、この本は、「テレビで売れて調子に乗った芸能人がとりあえず上っ面な名言集を出版した」という類の本ではありません。

本当に地獄をみて努力してやっと光をつかんだ人間が、「自分と同じように苦しんでいる人を救いたい」「この暗闇の世界を少しでも明るくしたい」という思いで執筆した素敵な本です。
そこには「前の本で得た印税を寄付したり海外に学校を建てたりなどを行っている」ことも含め、人に対する思いやりとたくさんの愛が詰まっていました。

「言葉一つで人生が変わるのか」と思われる方もいるかもしれませんが、私も西谷先生やディールカーネギーの言葉によって人生が変わった人間なので、断言できます。

言葉一つでも本気で感動して、心に炎が灯ったらあと自然に行動が変容し、人生が変わっていきます。
ローランドさんの言葉にはその力が宿っていると思います。

認知行動療法やアドラー心理学など特定の理論を学ぶのに苦手意識のある方や、共感を中心としたメンタル本に何か物足りなさを感じている方、「こうなりたい！」という人生のモデルを探している方にお勧めです。

ローランドさん素晴らしい本をありがとうございました。

評者プロフィール

2022 優秀賞・2021 選考委員MVP賞
平光源（たいら・こうげん）

東北地方でクリニックを開業している開業医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。
3年浪人してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約20年精神科医として心のケアに当たる。
支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。