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【書評】『もしかして、適応障害? 会社で“壊れそう”と思ったら』(評者:平光源/精神科医)

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選考委員の平光源さま(精神科医)より、ノミネート作品の書評をお届けします!
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もしかして、適応障害? 会社で“壊れそう”と思ったら
森下克也 著
CCCメディアハウス
2019年11月発売

書評

平光源の書評シリーズ。
今回は森下克也先生の『もしかして、適応障害? 会社で“壊れそう”と思ったら』(CCCメディアハウス)です。

今回もこの本のいいところを3点にまとめて説明しますね。

1.メンタル本界の大谷翔平、あらゆることが二刀流の本

私も自分で本を書くときに苦心しましたが、病気で困られている方向けに書く本なのか、サポートする治療者や家族向けの本なのかで書く内容や難易度が変わってきます。

また、治療者でもそれが薬を使う医師なのか、薬を使用しない心理カウンセラーなのかでも内容が違いますし、薬の説明でも漢方なのか西洋医学の薬剤なのかでまるで内容が違います。

その中間地点を狙って書くと内容が中途半端になったり、自分の苦手分野の項目の記載が陳腐になったりすることもしばしばで、「どちらも」という欲張りな本はほぼ失敗作に終わります。

ところが、この本はちゃんと両方の欲求を満たす本になっています。

ストレスのメカニズム

たとえば、p25ではストレスについての医学的なメカニズムもしっかり記載してあり、医師も十分参考になるものです。

まず、あなたがストレスに直面したとき、脳の視床下部という部位がそれを認識し、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌されます。CRHは、その近くにある脳下垂体と自律神経の交感神経中枢に作用し、脳下垂体よりACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とベータエンドルフィン、交感神経中枢からのノルアドレナリンの分泌を促します。

出典:『もしかして、適応障害? 会社で“壊れそう”と思ったら』森下克也 著、CCCメディアハウス(p25-26)

適応障害シーソー

一方で、p31の「適応障害3つの要素」の図のように、シーソーの図を使って、うつや不安で思考力が低下している患者さんにも理解しやすいように、適応障害の仕組みをとても分かりやすくまとめてくれています。

※上記はメンタル本大賞実行委員会にて作成

適応障害は、ストレス要因(外部要因)、感じ方や考え方という心理的要素(内部要因)、三段階のストレス反応(時間要因)、という三つの要素から成り立っています。(中略)

外部要因と内部要因が、時間要因を軸に、シーソーのように、より比率の高いほうに傾きます。その傾き方が、適応障害の個人差です(適応障害シーソー)。
例えば、性格や考え方に問題がなく、あるのは外部要因のストレスだけで、なおかつストレスが生じた期間も短いという人は①になります。このパターンは治りが早く、職場から離れて自宅安静に入ればほどなく回復します。

片やクヨクヨと考え込み、ストレスの期間が長い人は②です。こういう人は、自宅安静に入っても心が休まらず、不眠や食欲不振などの症状がなかなか改善しません。

あなたが何かストレスを感じているとしたら、この図を思い出して、直面するストレスを外部要因、内部要因に分け、どこにどの程度の問題があるかを整理してみるといいでしょう。

出典:『もしかして、適応障害? 会社で“壊れそう”と思ったら』森下克也 著、CCCメディアハウス(p30-32)

他にも、薬の説明で西洋医学の薬の説明だけでなく、漢方の処方にもしっかり触れられていて、「さすが何冊も漢方専門の本をかかれている先生」という充実した内容です。

その姿は、中途半端どころか不可能を可能にする二刀流。
どちらにも向いているのにどちらにも全力で、内容に無駄がなくシンプルで分かりやすい。

先生をわかりやすく有名人に例えると、「メンタル本界の大谷翔平」と言って良いと思います。

2.たくさんの引き出しのあるお得な本

先ほどものべましたが、この本は、患者さんにも治療者にも両方が使える本だけあって、記載が多岐にわたります。

自己評価できる心と身体の不調チェックリストを掲載

たとえば、自分が眠れないときにそれが病気か否かを判断するための、アテネ不眠尺度(p40)や、抑うつ状態を判断するツング自己評価式抑うつ尺度(p54)、更には長期のストレスがかかっている人の表情のチェックリスト(p65)など、チェックリストが豊富で、自分の今の状態をなるべく客観的に判断するツールがたくさん載っています。

自分で試せるセルフコントロール法も充実

また、適応障害の時の身体の不調に対して、腹式呼吸の方法やリンパマッサージの指の形と流れ、指もみ、手もみ法や便秘時の生ニンジンのすりおろしやハブ茶まで、とても紹介しきれないぐらいの患者さんが自分で試せる具体的な方法が243ページのなかに詰まっています。

その多彩な内容は、まるで5段の重箱に詰まったおせち料理のようです。

一見バイキングのように沢山の料理で溢れているようで、1人の一流料理人が手がけているので、味や色味に統一感があって安心して味わうことができます。

その引き出しの多さ、そしてそれを上手に料理する腕前には本当に脱帽です。

3.きめの細かい配慮に、医師の優しいまなざしを感じされられる本

この本は適応障害に特化した本ですが、その成り立ちから、症状、診断された後の休養の仕方、職場での対応、復職までの一連の流れが記載されています。

しかし、ただ流れを雑然とかいてあるのではなく、例えば、多くの患者さんが悩むけれど、ほとんどの本に書かれていない、「医師とうまく付き合うには」ということに関してまるまる1章費やして、上手な医師とのかかわり方を書いてくれています。

これは、医師目線だけではとても考えつかず、患者さん目線にもなれる森下先生だからこその配慮だと思います。

復職に立ちはだかる3つの壁

さらに、復職を阻む壁を具体的に解説してくれています。

  1. 長欠感情の壁
  2. 職場滞在の壁
  3. パフォーマンス回復の壁

そして、長欠感情には、

「周りは頑張っているのに自分だけできない」といった劣等感
「腫れ物に触るように扱われている」といった孤立感
「力になっていなくて申し訳ない」といった罪悪感

があると詳細に述べ、その解決法まで分かりやすく解説してくれています。

このようなかゆいところに手が届くきめ細やかな配慮のある文章は、ずっと患者さんに寄り添い続けてきた医師の愛の結晶。

読んでいると森下先生の優しいまなざしで見守られているような錯覚に陥ります。

まとめ

この本をひとことで言うと、

「メンタル本界の大谷翔平が書いた、優しさにあふれた適応障害の方のバイブル」

適応障害と診断された患者さん、その家族、そしてそれをサポートするすべての医療従事者に読んでほしい本です。

森下先生、素晴らしい本をありがとうございました。

出典:平光源さまFacebook投稿(2021年8月7日)

評者プロフィール

2022 優秀賞・2021 選考委員MVP賞
平光源(たいら・こうげん)

東北地方でクリニックを開業している開業医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。
3年浪人してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約20年精神科医として心のケアに当たる。
支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。

メンタル本大賞2022 ノミネート作品

あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから
平光源 著
サンマーク出版
2021年4月発売

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