平光源 PR

【書評】『1日3分でうつをやめる。』(評者:平光源/精神科医)

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

メンタル本大賞2021【選考委員MVP賞】に輝いた平光源さま(精神科医)より書評をお届けします!

メンタル本大賞®2022 ノミネート作品

1日3分でうつをやめる。
川本義巳 著
扶桑社
2019年10月発売

書評

平光源の書評シリーズ。
今回は、川本義巳先生の『1日3分でうつをやめる。』(扶桑社)を取り上げてみます。

今回もこの本の良いところを3つに分けて説明します。

1.うつ病体験者だからわかるかゆいところに手の届く本

私も鬱を経験したからよくわかりますが、鬱状態のときには、いくら「プラスに考えよう」「細かいことは気にするな」と言われてもどうしてもマイナス方向に考えてしまいます。

それは認知療法中も同じで、どうしてもマイナスな考えをプラスに変換できないと、できない自分がますます情けなくなり、鬱状態が悪化する患者さんもいるぐらいです。

それはマイナス10度で凍っている氷をいきなり100度の熱湯にするぐらい難しいこと。

そこで川本先生は、「まずはネガティブな思考を止めることからはじめよう」(p53)と伝えてくれます。

メンタル本大賞実行委員会作成

詳細は本書を読んでいただきたいのですが、今自分の身の回りにあるもの、五感を使って詳細にチェックしていきます。

それによって、過去の後悔でも未来の不安でもなく、「今ここ」に意識を戻すこと。

それを感じることによって、思考が止まることを教えてくれます。

これは本当に鬱を体験した方でないとわからない感覚だと思います。

「そう、そこ、そこ」とかゆいところに手の届く本です。

2.例え話が秀逸で本当に腑に落ちる本

私も外来で短いカウンセリング時間でも、納得していただくために、例え話を使うことが多いのですが、先生の例え話もとってもためになります。

例えばp87で、思考を止める理由についての「止めてもまた落ち込むのでは?」という質問に対して次のように解説しています。

わかりやすい例をひとつ挙げてみますね。

「雪が降っている真冬の夜に、1時間薄着で外に立っていたらどうなるか?」

これを想像してみてください。相当つらそうですし、風邪をひいたり凍傷になってしまいそうですよね。

では、次にこういう想像をしてみてください。

「雪が降っている真冬の夜に、1分間外に出て1分間暖かい部屋で過ごす、を1時間繰り返したらどうなるか?」

今度はなんだかいけそうな気がしますよね? 1分間ずつなので、外に立つのは延べ30分。さっきの半分です。これだけでも負担は減るし、つらい状況が連続しないので、身体面での影響もさほどなさそうです。

嫌なことがあったらネガティブになるのは自然な反応ですが、問題は長時間連続してネガティブな状態を作ること。するとネガティブ思考が強化されてしまい、ネガティブに考えなくてもいいところまでそう考えるクセがついてしまう。これが怖いのです。だから避けたい。

出典:『1日3分でうつをやめる。』川本義巳 著/扶桑社(p87-88)

このようなわかりやすい例え話で、ちょこちょこでもネガティブ思考を止めることが、とても意味のあることだと理解させてくれます。

他にも、なるほど!と腑に落ちることがたくさん詰まった本です。

3.鬱になった患者さんだけではなく、家族にもとても参考になる本

この本は全部で5章からなりますが、第4章を家族のための理解と接し方の章に割いてくれています。

P187では、ご自身の体験も踏まえて、うつ病の人は「ほっといて欲しいけど、かまってほしい」と病気のときの気持ちを見事に表現して、だから、「同じ部屋ではなく、隣の部屋にいてあげて下さい」とちょうどいい距離の取り方を提案してくれています。

また奥様のとってくれた対応を思い返してくれながら、腫れ物にさわるような病人扱いではなく、奥様からの感謝が、うつからの回復のきっかけになったことを書いてくれていました。

徐々に回復に向かい出したときは「寝ているだけではどうもしんどい」と思えるようになってきました。体も少しずつ動くようになりました。
ただ外に出るのはまだハードルが高すぎたので、まずは家の中でやれることを探しました。

その結果、古新聞を束ねるということをやりました。そして奥さんが帰宅したときに「これをやった」と報告したんですね。
そうしたら彼女が「うわー! 新聞まとめてくれたんやね。ありがとう」と言ってくれました。

これは効きました。

「ありがとう」と言われたことで、病気になってから初めて「仕事ができた」感覚になれたのです。

出典:『1日3分でうつをやめる。』川本義巳 著/扶桑社(p196-197)

実体験でもあり、また看護師である奥様の視点も入っているので、家族にとってもとても貴重で参考になる本だと思います。

まとめ

この本を一言で表すと、

「分かりやすくて腑に落ちる家族にもおすすめのうつ病克服本」です。

うつ病と診断されどうしていいか途方に暮れている方、薬物療法だけでは上手くいかず回復が長引いている方、うつ病を理解しサポートしたいご家族にもオススメの一冊です。

川本先生、素晴らしい本をありがとうございました。

評者プロフィール

2022 優秀賞・2021 選考委員MVP賞
平光源(たいら・こうげん)

東北地方でクリニックを開業している開業医。
高校時代、自分の不登校によって医学部受験に失敗。
3年浪人してうつになり、ある本がきっかけでうつから回復した経験をふまえて、約20年精神科医として心のケアに当たる。
支援学校学校医、老健施設往診医、いのちの電話相談医、傾聴の会顧問など、その活動は多岐にわたる。
精神保健指定医、精神科専門医、日本医師会認定産業医。

メンタル本大賞2022 ノミネート作品

あなたが死にたいのは、死ぬほど頑張って生きているから
平光源 著
サンマーク出版
2021年4月発売

公式サイト・SNS
平光源WEBサイト(総合案内)
Twitter
YouTube

平光源さまからのメンタル本大賞へのメッセージ・推薦作品はこちら
(書評一覧はこちら

書影は版元ドットコム様サイトに掲載されております画像を指定ルールに則って利用させていただいております。版元ドットコム様サイトに掲載されていない作品については、事前に出版社様の了承を得て掲載しております。

このページがお役に立ちましたら
上のハートマークを押してください。
当サイトは、日常生活において「しんどい」「生きづらい」と感じている方向けに【心が楽になる】書籍のご紹介を目指しておりますが、お読みになる方の悩みや状況の改善をお約束するものではございません。ご自身の責任においてご利用ください。
プライバシーポリシー・免責事項

こころの病気は誰にでも起こります。
不調やストレス症状が長く続いたり、日常生活に支障が出ている場合は、早めに医療機関やカウンセラーに相談してください。

相談できるところはたくさんあります。
厚生労働省|みんなのメンタルヘルスには、相談窓口や医療機関についての情報が掲載されていますのでご参考ください。