古本と新刊のこだわりの選書やアクセサリーなどの雑貨を取り扱う独立書店「百年の二度寝」(東京都練馬区)の店主 河合南さまより書評をお届けします!
要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑 F太、小鳥遊(共著) サンクチュアリ出版 2020年4月発売 |
書評
ADHD当事者の小鳥遊さんと、要領が悪いとみなされてクビになった経験をもつF太さんによる、仕事術の本です。
「図鑑」というタイトルには偽りなく、要領よく動くことが苦手な方向けの80のメソッドが、見開き、もしくは1ページにわかりやすくまとめられています。
発達障害など仕事をスムーズに進めるうえでの障害となる特性を持っている人はもちろん、診断には至っていないものの仕事上のつまづきが多くて苦痛を感じている人、もっと要領よく仕事を進めたいと考えている人、どなたにも役に立つ一冊だと思います。
「失敗経験」をつづったコラムも絶妙
本を開いてみてまず「いい!」と思ったのが、とても見やすく読者に負担をかけない紙面づくりです。
文字の並びや見出しなどは詰めすぎて圧迫感が出ないように配慮されていますし、やさしい水色と黒の2色刷りでメリハリもついているので、本 を読むことがちょっとしんどい状況にある方も比較的負担なく読めそう(もちろん、個人差は大きいですが)。
1ページあたりの情報量もほどよい塩梅だと思います。
欄外にあるひとことツッコミも、読者の緊張をほぐす「アイスブレイク」につながるのではないでしょうか?
お2人の「失敗経験」をつづったコラムも絶妙。
仕事術の本って「そりゃ、本を出せるような人なら実行できるけど、自分には無理だわ」って思わされることも多いのですよね。
でも、お2人が率直につづる経験談をよむと、「こういう時期を経て頑張っている方がいるのだし、私にもできるかもしれない」と思えますし、仕事術の解説も素直に取り入れることができます。
読者がつまずきそうな場面を丁寧にひろいあげる目配りの良さ
お2人のメソッドの根幹を成すのは「仕様書づくり」
あらかじめどういった仕事をする必要があるかという「仕様書」を作成し、それに沿って仕事をすることで、不注意による抜けや漏れ、先送り癖を防ぎます。
仕様書作成の際に、仕事の内容を出来るだけ細かく「きざむ」ことも推奨されています。
例えば、「書評を書く」とだけ仕様書に書くのではなく、「下調べをする」「書評を執筆する」「校正をする」「メールに添付して発送する」と、仕事内容を細かく分割して、ひとつひとつをこなしていくことで、漠然とした「やるべきこと」をするより、自身の進捗を捉えやすくなり、ミスを防ぐことにもつながるそうです。
仕様書作成のみならず、仕事上の人間関係や、メモの取り方、電話応対の仕方など、「要領がよくない」とされる読者がつまずく可能性のある場面を、ひとつひとつ丁寧にひろいあげてゆく目配りの良さも、素晴らしいと思います。
「コミュニケーションが苦手」「メンタルが弱い」という章においても、根性論やべき論ではなく「技術」を中心に据え、ある程度の「あきらめ」「わりきり」も必要なのだとあくまで実践的に記述されており、読んでいて前向きになれます。
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巨大なハードルを一気に飛び越えようとするよりも、できるだけ小さく低く設定したハードルをひとつひとつ越えていくことで前進する方が、結局は前に進める。
本書に通底するのはこういったメッセージだと思います。
ひとつひとつ、簡単なメソッドを示しながら読者に伴走するこの本が、そのメッセージにどこまでも忠実に作られていることにが素晴らしいと思いました。
「百年の二度寝」店主・河合南さんよりお知らせ
独立書店 百年の二度寝(西武池袋線 江古田駅より徒歩5分)は書籍の販売以外の活動を行える場を目指し、あらゆる表現を扱う本屋「とか」の店をうたっています。
ご報告が遅れてしまいましたが、イラストレーター・漫画家のTokinさん( @Tokin0528 )の原画を展示、販売しています。
Tokinさんらしい柔らかな色使い+仄かな毒をはらんだステキなイラスト揃いです。額なしの作品は1000円から、額装済みでも6000円と手を伸ばしやすい価格。もちろん、 pic.twitter.com/bsA9oMtbDU— 百年の二度寝 (@mukadeyabooks) May 13, 2022
現在、アニメ『おしえて北斎!-THE ANIMATION-』の美術監督、コミックエッセイ『実録 解離性障害のちぐはぐな日々』(合同出版)の著者でもあるTokinさんの原画を期間限定(2022年6月頃までの予定)で取り扱っています。
ぜひお立ち寄りください!
メンタル本大賞実行委員会
評者プロフィール
河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。
公式サイト・SNS
百年の二度寝ホームページ
百年の二度寝 Twitterアカウント(@mukadeyabooks)