昨年、選考委員としてご協力いただいた川本義巳さま(公認心理師&メンタルコーチ)より、2022ノミネート作品の書評をお届けします!
もうあかんわ日記 岸田奈美 著 ライツ社 2021年5月発売 |
書評
メンタル本大賞2022エントリー作品の紹介です。
今回は『もうあかんわ日記』です。
岸田奈美さん著でライツ社さんから出ています。
この本の感想をひとことであらわすと
「これ読まなあかんやつ!」
です。
実は最初から最後まで、泣きながら笑いながら読ませていただきました。
何枚ティッシュを消費したことか(笑)
岸田さんは以前「車椅子ユーザーになったお母さんの夢を叶えるため、全財産をはたいて
ボルボを車椅子仕様にした人」というネット記事を見たこがあって「あ!あの岸田さん」という印象でした。
今回のお話はまたもや岸田さん家族のお話
岸田さんのご実家は神戸にあって、車椅子ユーザーのお母さん、ダウン症の弟くん、ちょっと認知症かも知れなくなってきたおばあちゃんの3人暮らし。
これだけでもいろいろありそうなんだけど、この本の冒頭はそのお母さんが大病を患うところから始まります。
お母さんが生死をかけるほどの大手術をすることになり、必然的に実家に戻った岸田さんを待っていたのは、数々のトラブルでした。
弟くんとおばあちゃんがしでかすことや、ワンコたちの問題やベランダに住み着いた鳩問題まで、ありとあらゆる災難がふりかかります。
同時に洗濯機と電子レンジが壊れるなど泣き面にハチ状態。
お母さんの退院後の生活のこともあったりと、日々奔走する様が描かれています。
内容的には「本当に大変ですよねー」と同情してしまうところが多いのですが、それでも思わず「ププッ」とか「ゲラゲラ」とか笑ってしまうのは、岸田さんの文章のすごいところ。
「人間っていいな」そんな気持ちになれる本
特に僕のツボにはまったのがおじいちゃんのお葬式シーン。
今思い出しても笑えるわ。
そして、岸田さん本人もこんな風に書いています。
かのチャップリンは、「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」と言った。
わたしことナミップリンは、「人生は、ひとりで抱え込めば悲劇だが、人に語って笑わせれば喜劇だ」と言いたい。
みんなも心当たりがあるだろう。
悲劇は、他人ごとなら抜群におもしろい。出典:『もうあかんわ日記』岸田奈美 著/ライツ社(p9)
岸田さんはこの「もうあかんわ」の状況を、文章として人に聞かせることで、笑いに変え
ました。
笑いには希望があります。
生きる力もわきます。
多分僕らにも岸田家に似たような「もうあかんわ」なことがあったりします。
それを自分だけのものにせず、誰かに話してみる。
それは大きな違いなのかも知れません。
読み終わったあとなぜだか「人間っていいな」そんな気持ちになれる本です。
評者プロフィール
メンタル本大賞2021 選考委員
川本義巳(かわもと・よしみ)
三重県松阪市生まれ津市在住。
うつ専門メンタルコーチ/公認心理師/一般社団法人エフェクティブコーチング協会代表理事。高校卒業後、SEとして20年以上メーカーに勤務。大手IT企業への転職を機にうつ病を発症、寝たきり状態になり、1年2か月の休職を余儀なくされる。2007年コーチングに出合い、うつ病を完全克服。それを機にうつ専門のプロコーチになることを決意。コーチング、NLP、アドラー心理学、エリクソン催眠を学び、それらを応用したメソッドを開発し、2010年個人コーチングを開始。自治体や上場企業でのメンタルヘルス研修講師や精神科クリニック、児童相談所、教育委員会での相談業務等でも経験を積み、10年間で1万件以上の相談、指導を行っている。
1日3分でうつをやめる。 川本義巳 著 扶桑社 2019年10月発売 |