【メンタル本大賞2022】
「メソッド・考えかた部門」審査コメント
「メソッド・考えかた部門」ノミネート作品
1日3分でうつをやめる。 川本義巳 著 扶桑社 2019年10月発売 |
悩み方教室 河田真誠 著 CCCメディアハウス 2021年4月発売 |
なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか? 西剛志 著 アスコム 2021年6月発売 |
つよつよメンタルで人生は思い通り 三木未希 著 KADOKAWA 2021年10月発売 |
ココロちゃんの取扱説明書(トリセツ) 古山有則 著 あさ出版 2021年12月発売 |
「メソッド・考えかた部門」評価結果・作品別コメント
1位 | 30 pt | ココロちゃんの取扱説明書(トリセツ) 古山有則 著 あさ出版 |
2位 | 20 pt | つよつよメンタルで人生は思い通り 三木未希 著 KADOKAWA |
3位 | 10 pt | 1日3分でうつをやめる。 川本義巳 著 扶桑社 |
30pt:『ココロちゃんの取扱説明書(トリセツ)』
ココロちゃんの取扱説明書(トリセツ) 古山有則 著 あさ出版 2021年12月発売 |
評価ポイント
- 心の奥底に眠っている本音や自我(恐らくインナーチャイルドと呼ばれる概念と同じもの)を「ココロちゃん」として擬人化しているのが大変効果的。
- 煽るような書き方をしている箇所がほとんどなく、非常にバランスのとれた記述がなされている。
- 人間関係や家族関係にふれている箇所も、踏み込みすぎることなく当事者を追い詰めない記述になっている。
評価理由
自身の内心やココロの奥底にある自我を「ココロちゃん」と名付け、擬人化した「他者」として取り扱っているのが、なによりもいいと思いました。
「自分を大切に」と言われても響かない場面でも、「ココロちゃんと仲良くする」「ココロちゃんのご機嫌を取る」と捉えると、少し、自分を労ることが出来る気がします。
全体に、記述のバランスがとれていて、当事者を煽ったり追い詰めるような部分が見当たらないのも美点かと思います。
巻末の「ワーク」もあまり負荷のかからない工夫がなされています。
カフェ(スターバックスなど)でトッピングやカスタマイズを注文して緊張になれるワークなどアイデア賞ものですよね(本屋で欲しい本を取り寄せてもらうワークもいいかもしれない……)。
20pt:『つよつよメンタルで人生は思い通り』
つよつよメンタルで人生は思い通り 三木未希 著 KADOKAWA 2021年10月発売 |
評価ポイント
- イラストがかわいくて親しみやすい。
- 読者を象徴するうさぎのキャラクターがなんだか憎めなくていい味を出している。
- いきなりワークに入るのではなく、「コーチング」「NLP」とは何か?という理論をかみ砕いて教えてくれるため、コーチングに馴染みのない人も安心。
- やるべきことが極めて具体的、かつ、無理をしなくてよいように考えられている。
評価理由
タイトルの「つよつよメンタル」という言葉に最初は馴染めなかったのですが、「強い」と言い切ってしまうことで、人によってはハードルが上がってしまうことも考えられるので、そうならないように配慮したタイトルなのだと思います。
紹介されているワークの作業量はそれなりにありますし、自分自身を掘り下げて目標を見出すことも要求されるので、辛くて辛くて起き上がるのも大変な人よりは、ある程度心的エネルギーが残っている人が読むべき本かな、と思います。
かなり複雑な理論があって成立しているであろう「コーチング」について、「まずはやってみよう」という気持ちになるくらい平易に説明していただいているため、コーチングについての本を初めて読む場合、自信をもってお勧めできる内容だと思います。
10pt:『1日3分でうつをやめる。』
1日3分でうつをやめる。 川本義巳 著 扶桑社 2019年10月発売 |
評価ポイント
- 細川貂々さんの巻頭漫画がわかりやすい。
- うつ病経験者の著書なので、やるべきことが具体的、かつ納得できる説明を交えて教えてもらえる。
- 「1日3分」というタイトルに偽りなく、「メンタル・リセット・プログラム」のやり方が大変簡単で取り入れやすい。
- 「家族がうつになったら」の章で描かれる奥様の対処法がすばらしくて、参考になる。
評価理由
実際にうつ病にり患して一年以上の休職、再発、退職という経験をされたメンタルコーチによる、「メンタル・リセット・プログラム」の解説書。
ただ、ご自身が大変な努力をして「うつ抜け」を果たした方だけに、うつを何とかしたいと思いつつ何もできない当事者に対して、若干「厳しいんじゃないかな?」と感じられる面もあるが、「ポジティブ」な気持ちになる前に、「ネガティブ」な気持ちを「いったん止める」という順番になっているのは、実際にうつの経験がある人ならではの配慮だと思う。
回復のためには、「うつを誰かに直して欲しい」ではなく、「うつを治したい」という気持ちが必要だというのは確かに真実だが、一番しんどい状況にある当事者にとっては酷な気もするし、「自己責任論」的な間違った解釈を誘わないかは少々心配でもある。
しかしながら、著者=当事者であるだけあって、紹介されるプログラムは極めて負担の少ない方法であり、うつ傾向が強い方でもある程度なら実践できそう。
また、うつに陥っている時にありがちな、「できない理由」をひとつひとつ丁寧につぶしてくれるため、読んでいると「自分でも出来そう」という気持ちがわいてくる。
「メソッド・考えかた部門」総評
この部門に関しては、私にコーチングの理論などの知識がもっとあったらもう少しフェアに評価できたかも知れない、と思います。
今回は、理論として妥当か正確かと言う面より、精神疾患のいち当事者としてどのように受け止められるかを評価基準に選びました。
結果、強い言葉で元気付けてくれる本より、やわらかい読み心地の書籍が上位に来ることとなりました。
私はビジネス書を多読した経験がなく(以前いた書店ではビジネス書担当だったのですが……)候補作をすべて読むのに若干苦労したのですが、ひとくちに「ビジネス書」「メンタル本」と言っても、それぞれ別の思想や方法論に乗っ取って作られており、同じ知識を扱うにしてもまったく切り口が異なるものだと思いました。
とても貴重な経験をすることができ、感謝しています。
今回評価した本や書評した本を読んで知ったのですが、ビジネス書の本文は2色印刷である事が多いんですね。
黒(スミ)の他にもう一色使うとして、それを何色にするかが、書籍全体のトーンを表していて興味深かったです。
メンタル本に関しては「水色(シアン)」か「オレンジ」を使ってらっしゃる場合が多く、落ち着きや優しさを前面に出すときは水色、激励や元気付けを中心に添える場合はオレンジを選択される傾向があるようです。
メンタル本を書店で探すとして、「色」を基準に選ぶのもいいのかも知れないですね。
選考委員プロフィール
河合南(かわい・みなみ)
東京都練馬区の書店「百年の二度寝」の店主です。発病してから15年以上付き合ってきたうつ病の当事者でもあります。店主自身が精神疾患の当事者と言うこともあり、精神疾患の当事者さんや周囲の方が読める本にも力を入れています。
公式サイト・SNS
百年の二度寝ホームページ
百年の二度寝 Twitterアカウント(@mukadeyabooks)