2022選考委員MVP賞を受賞。日本読書療法学会を設立して、読書セラピーの研究と実践を続けてきた寺田真理子さまより書評をお届けします!
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こころのもやもやを脳のせいにしてラクになる方法 加藤俊徳 著 WAVE出版 2021年7月発売 |

書評
弱っているところが目に見えると、いたわろうとするものです。
腕を骨折して包帯を巻いていたら、負担がかからないように大事にするでしょう。足を痛めて松葉杖をついていたら、気をつけて歩くようにするでしょう。
それなのに、心のことになると、いたわろうとはしないのですよね。
うまくいかないことがあって落ち込んだ時、「自分はなんてダメなんだろう」と、いたわるどころか、厳しく自分を責めてしまうのです。
それは、心のことは、目に見えないから。
もし心が弱っているのが目に見えたら、「あ、ここをケガしてるから、包帯を巻いてあげなきゃ」と、いたわろうとするのではないでしょうか。
この本では、「心の悩みをすべて脳に置き換えてしまうこと」を提唱しています。
脳を8つの脳番地に分け、たとえば「決断力がない」のは思考系脳番地が、「片付けが苦手」なのは視覚系脳番地が、「自分の考え、思いを伝えられない」のは伝達系脳番地がそれぞれ使えていないという、脳の癖として捉えます。
それぞれの脳の癖に応じて、弱い部分を変えていくための具体的なトレーニングが紹介されています。
たとえば視覚系脳番地のトレーニングは「電車の広告を隅々まで読む」「自分の顔をデッサンする」「1日1枚写真を撮る」という具合。トレーニングといってもハードなものではなく、日常の風景を新鮮にしてくれるようなものなのです。
「自分を変えたいし、今の状態を何とかしたい。だけど疲れ切って行動する気力が出ない……」という方でも、こんなふうにちょっとしたことなら、取り入れていけるのではないでしょうか。
「すぐ不安になる人の処方箋」「自信が持てない人の処方箋」など、タイプ別の処方箋で具体的な行動をうながしてくれています。
そのようにきめ細かく読者をフォローしてくれるところもこの本の魅力なのですが、何より気持ちを軽くしてくれるのは、やはり「脳のせい」にできると知ることでしょう。
心の悩みが脳の癖として目に見えるようになることで、自分を責める代わりに、変えるための行動がとれるようになるのです。
自分を責めると、とてもエネルギーを奪われてしまいます。そんなふうに消耗してしまうことがなくなるだけでも、毎日がラクになるはずですよ。

評者プロフィール
メンタル本大賞2022 選考委員MVP賞
寺田真理子(てらだ・まりこ)
長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在し、ゲリラによる日本人学校脅迫や自宅の狙撃を経験。東京大学法学部卒業。多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演・執筆・翻訳活動。読書によってうつから回復した経験を体系化して日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。また、うつの体験を通して共感した認知症について、パーソンセンタードケアの普及に力を入れている。著書、訳書多数。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。
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心と体がラクになる読書セラピー 寺田真理子 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2021年4月発売 |

