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【メンタル本大賞2022】「職場・仕事部門」選考委員 審査コメント(中越裕史/公認心理師)

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【メンタル本大賞2022】
「職場・仕事部門」審査コメント


選考委員
中越裕史(公認心理師)

「職場・仕事部門」ノミネート作品

要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑
F太、小鳥遊(共著)
サンクチュアリ出版
2020年4月発売
「会社行きたくない」気持ちがゆるゆるほどける本
加藤隆行 著
小学館クリエイティブ
2021年4月発売
この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ
井上智介 著
WAVE出版
2021年9月発売

「職場・仕事部門」評価結果・作品別コメント

1位 30 pt この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ
井上智介 著
WAVE出版
2位 20 pt 要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑
F太、小鳥遊(共著)
サンクチュアリ出版
3位 10 pt 「会社行きたくない」気持ちがゆるゆるほどける本
加藤隆行 著
小学館クリエイティブ

30pt:『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』

この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ
井上智介 著
WAVE出版
2021年9月発売

評価ポイント

  • 産業医が辞めていいといってくれる安心感
  • 産業医・医師への相談の仕方を教えてくれる
  • 診断書の依頼の仕方などとてもありがたい
  • 医師に頼むことで休職・退職が大幅にやりやすくなる
  • 納得してもらえる退職理由がとても参考になる

評価理由

僕自身がカウンセラーになりたてのころに学んだある精神医学の講座では、メンタルの不調で休職しても、復職を目指すのが当たり前。
「退職した方がいいと勧めるなど論外」という空気がありました。

なにしろ18年も前のことですから、まだ転職が今ほど当たり前になっていない時代だったし、ブラック企業という言葉も一般的になっていなかったからかもしれません。

ただ、僕個人としては、「同じ職場に戻ってもほとんどの場合、同じ部署で同じ業務で働くことになる。それではまたメンタルをやられてしまうのに…。違う部署に行かせてくれるなんて、よほどの大企業だけだよな~」と思っていました。

ところが、この本の著者である井上智介先生は、産業医であるにも関わらず、問題がある会社であれば辞めることを勧めています。

P99では、「でも私は、辞めて後悔している人に出会ったことがありません」とまでおっしゃってくださいます。

辞めたいのだけれども、いろんな不安があって辞められない。
そう思っている人にとって、これほど心強い言葉はないと思います。

時代が変わったというのもあるのでしょうが、産業医が会社を辞めていいとはっきりといってくれることは、働く人の心理カウンセリングをしてきた僕にとって、衝撃的かつ感動的なことです。

また、P129の「『会社からの連絡はメールか郵送で、電話連絡はやめてほしい』ことと、『会社とのやりとりの窓口は一本化してほしい』ことをお願いしてみてください。もし直接伝えるのが苦痛なら、診断書の中にその旨を記載してもらえるよう、主治医に相談するのも良いです」などのアドバイスは、実践的で本当に役に立つと思います。

ほとんどの人は、そういうことを医師にお願いしても良いという発想自体がありません。

この本にはこういううまく医師を活用する方法が、たくさん書いてあります。
これは医師、特に産業医だからこその視点だと思います。

精神科や心療内科を探すのなら、自宅から一番近いところというアドバイスは、僕自身も同じことを相談者さんに伝えています。

多くの場合、メンタルの不調があるときは出歩くのもしんどいのです。
遠い病院を選んでしまっては、病院に行くだけでクタクタになってしまいます。
そうなると通院を中断することになりかねません。

休職中の転職活動の仕方や、会社に納得してもらえる退職理由の作り方も、きっと参考になるはずです。

退職理由は作り話であっても問題ない。
それが作り話であってもそれを追及できる人はいないなど、相当勇気を出さなければ書けない内容だと思います。

なにしろ、うそも方便とはいえ、うそをついてもいいといっているのです。
これについてはそういう意味のことをほのめかすことはあっても、ここまではっきり断言できるのは、すごいことだと思います。

産業医にここまではっきりいってもらえると、安心して辞める理由を会社に伝えられると思います。

メンタルの不調を感じていて、これから会社を辞めようかと迷っておられる方には、とても心強い味方になってくれる一冊です。

20pt:『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』

要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑
F太、小鳥遊(共著)
サンクチュアリ出版
2020年4月発売

評価ポイント

  • 実際にADHDの小鳥遊さんが書いてるだけに本当に実用的
  • F太さんはまた違う方面から実用的な考え方を教えてくれる
  • ノウハウだけでなく心が楽になることを教えてくれる
  • 一般の人も使えるノウハウが多い

評価理由

ADHDの人はもちろん、それ以外の一般の人が読んでも役に立つことが多いです。
僕はここがとても重要だと思っています。

というのも、診断はおりないけれどもADHDの傾向があるという、いわゆるグレーゾーンの人たちにとって、とても参考になるからです。

手順書を作ることはADHDの傾向がある人にとって、本当に重要なことだと思います。
この本のタイトルから考えて、ADHDと診断はされていないけれども、仕事でミスが多い、要領が悪いと悩んでいる人にとって、とても重要なことを伝えられていると思います。

P42の「勇気を出してスカスカな予定を立てる」は、僕自身もやっていること。

勇気を出して予定をスカスカにしているから、トラブルに対応できるんですよね。
そして、働いている限り必ずトラブルはやってきます。

そういったときにパニックにならないためには、勇気を出して予定をスカスカにする必要があります。

案外、僕のような自営業者、フリーランスにとっても役立つ部分でした。

また、発達障害の傾向がある人とともに働く人にとっても、どういうポイントで仕事がうまくいかなくなるのかがわかるだけで、ずいぶんと一緒に働きやすくなるはずです。

特に、P146の「なるべく『こそあど言葉』を使わない」を知っているだけでも、全く変わってくると思います。

ノウハウだけではなく、落ち込まない考え方や落ち込んだときにどのようにケアするかも参考になります。

それからP165の「悩みに大小はない」というF太さんの一言は、名言。

悩みなんて本当に人それぞれで、大きな悩み小さな悩みなどなく、悩んでいる本人にとって重要な悩みかどうかなだけです。

あと、P7の「職場選びはただのくじ引き。ハズレだったらもう1回引き直せばいい」もすごくいい言葉。

こういう気持ちがあるかどうかで心の余裕が生まれます。
仕事をやめて悩んでいた過去の自分に教えてあげたい言葉です。

本の構成、編集としてみても、一つの項目が短くとても読みやすいです。

ADHDの人はもちろん、要領が良くないと悩んでいる人にとっては、きっと役に立つノウハウがあると同時に、悩む気持ちを和らげてくれる本だと思います。

10pt:『「会社行きたくない」気持ちがゆるゆるほどける本』

「会社行きたくない」気持ちがゆるゆるほどける本
加藤隆行 著
小学館クリエイティブ
2021年4月発売

評価ポイント

  • たくさんのケースが載っているので、自分に当てはまるものが一つはあるはず
  • 自己肯定感について詳しく説明してくれて、わかりやすい
  • 会話調の書き方なので、メンタルが落ちてるときでも読みやすい。

評価理由

会社に行きたくない、仕事で悩んでいる。その中でも特に、自己肯定感が低くて問題が起きている人にとって、すごく良い本だと思います。

P55の「あなたはなぜ仕事を『断れない』のでしょうか?『仕事を断ったら何が起こる?』『私は何を恐れている?』と自分に問いかけてみましょう」という質問は、とても大事。
仕事を断れなくて、メンタルの不調になる人は多いですからね。

またP72の「他人と比べないようにしようと思っても、比べちゃうんだからしょうがない。そんなときはまず『比べちゃうんだよな』『そういうときもあるよね』と、その気持ちをそのまま眺めてみてください。まずは自分が自分に『共感』してあげるのです」という考え方も、とても大事です。

まわりと比べちゃいけないとはよくいうものの、人間は社会的生き物ですから、多少、比べてしまって当然なのだと思います。
落ち込んでいるときに、「まわりと比べるからダメなのよ」といわれると、さらに否定された気持ちになりしんどくなってしまいますからね。

そして、P131の「私たち(30代後半以上)の世代は、『がんばる』ことと『ガマン』することをイコールと考えすぎているのかもしれません」という考え方も、とても共感できます。

「ガマンすること=がんばること」じゃないんですよね。
「ガマンすること=がんばること」と思っていると、ガマンしていない人に対して腹が立ってしまいます。
でも、そのガマンって本当に必要なガマンなのでしょうか?

もちろん働いていれば、ガマンが必要なときもあります。
ただ、若い世代からすれば不必要で理不尽なガマンが多く見えるのも、やはり事実でしょう。
この辺は僕たち中高年が率先して、アップデートしていかなきゃいけない部分だと思います。

「職場・仕事部門」総評


まず間違いなくいえることは、どの本もとても良書です。
著者の方の思いや経験、知識がたくさん詰まった本です。

そういう本に点数や順位をつけることは、とても申し訳ないようなおこがましいような気持になります。

今回の順位や点数はあくまでメンタル本大賞の評価基準から考えてのことであって、どれも唯一無二の本当に素晴らしい良書であることは間違いありません。

そのなかで、『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』を1位とさせていただいたのは、メンタルの不調に陥り辞めたいのに辞められないと悩んでおられる人はとても多く、そこに産業医の目線からのアドバイスというオリジナリティがあったからです。

実際、「こういうふうに医師を活用してもいいのか!」と驚かされる内容も多く、働く人のカウンセリングを15年以上してきた自分としても、大いに参考になる部分がありました。

そこがメンタル本大賞の評価基準である

・読者層の幅広さ
・コンセプトの一貫性やオリジナリティ

にしっかりと一致していると感じました。

『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』は、発達障害がある方や仕事でミスが多くて困っている人に、ピンポイントで役に立つ本だと思います。

『「会社行きたくない」気持ちがゆるゆるほどける本』は、仕事で悩んでいる人の中でも自己肯定感が問題になっている方にとって、本当に心癒やされ役に立つ本だと思います。

どれも本当に良書でまったく味の違う本ですので、あくまで審査基準から考えたものであり、興味があればどの本も読んで良かったと思っていただけるはずです。

よい本を読ませていただき、ありがとうございました。

選考委員プロフィール


中越裕史(なかごし・ひろし) 
公認心理師。やりたいこと探し専門心理カウンセラー。1979年生まれ。大学卒業後、リフォーム会社、営業代理店を経て猛勉強のすえカウンセラーになる。独自の考え方を提唱し、2005年より「天職探し心理学 ハッピーキャリア」を運営。社団法人日本産業カウンセラー協会認定 産業カウンセラー。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

日本一やさしい天職の見つけ方
中越裕史 著
PHP研究所
2019年9月発売

公式サイト・SNS
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Twitterアカウント @nakagosihirosi
大阪茶屋町心理カウンセリング教室

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